幕間 縛りの印
セランの小屋での生活が二週間を超えたある夜、
薪を割り終えたカイを、セランが焚き火の前に呼び出した。
「……お前に、一つだけ“枷”を与えておく」
「え? なんですか急に」
「訓練で得た力は、“力を持つことの意味”を知らねばすぐに狂う。
だから、これはお前にとっての“楔”だ」
セランは手のひらに刻んだ紋様を露わにし、呪文を唱える。
「――《制縛の封》」
カイの胸元に、淡い緑光の紋が浮かんだ。
「これは……何だ……?」
「ハーフエルフの秘術だ。
この印がある限り、お前の“体力、魔力、反応速度”には、常に抑制がかかる。
本来の力の七割ほどしか出せなくなる」
「えぇっ!? なんでそんなこと……!」
「“制限された状態”でこそ、本質は磨かれる。
逆境の中で育った力は、真に頼れる“実力”となるからだ」
「それじゃあ、オレがこの先どんな強敵と出会っても……」
「問題ない。必要なときには、これを“解く合言葉”がある」
「じゃあ、それ教えて――」
「今は言わない」
セランは静かに目を細めた。
「それが“必要になる時”が来たら、お前自身が知ることになる。
あるいは、誰かが教えてくれる。……そういう流れだ」
カイは少し呆然としながらも、胸に浮かぶ光を見つめた。
「……重てぇな、これ」
「そう思えるうちは、まだ“甘い”ということだ。
だが安心しろ、カイ。“お前は必ずその時を迎える”。その時になれば――」
セランは一瞬だけ、寂しそうな目をした。
「……お前は、“勇者”ではなく、“一人の人間”として立っているはずだ」
焚き火がパチ、と音を立てる。
カイは拳を握り、強く息を吸い込んだ。
「わかりました。
じゃあ、この“縛り”ごと乗り越えてみせますよ」
「フッ……なら、とっとと寝ろ。明日から地獄だ」




