第1話 無能王子、民を救いたい
王城の玉座の間には、重々しい空気が漂っていた。
軍議──
それは国家における最重要会議。
戦略、治安、防衛、王族の将来を左右する場であり、幼い王族が口を出すなど言語道断とされる。
だが、その日、十三歳の第三王子・カイは、会議の末席に招かれていた。
「南の交易村が魔物に襲撃されたと報告がありました。被害は軽微、だが警戒が必要です」
老将の報告に、長兄レオンが頷く。
「では、明朝に討伐隊を編成し、周辺の掃討を行う。夜間の出撃は禁止。王都防衛が最優先だ」
会議の誰もが、その判断に異論を挟まなかった。
……一人を除いて。
「それ、本当に正しいの?」
会議室の空気が凍りついた。
発言したのは、末席に座る少年――カイだった。
彼の瞳は真剣だった。だがその声は、まだ幼さを残している。
「今夜、村がまた襲われたら? 人が死ぬかもしれない。なのに、明日まで動かないの?」
重臣たちの眉がひそめられた。
「王子とはいえ、越権発言ですぞ」「戦術の素人が何を――」
レオンが口を開く。
「おまえのような未熟者が、軍議に口を出すとは。場を弁えろ」
「……未熟なのは分かってる。でも、民を見捨てるのは、もっと間違ってると思う」
第二王子ジークが冷笑する。
「感情論で軍を動かすのか? そんなものは統治ではない。
“勇者”などという中途半端なスキルに相応しい、感傷的な理想だな」
ざわつく議場。
だがカイは、一歩も退かなかった。
「オレは勇者スキル持ち。何でもできるけど、何も極めてない。
でも――誰かを救うために、使いたい。
“勇者”って、そういうスキルじゃないの?」
議場は沈黙した。
やがて、王国宰相が静かに告げた。
「第三王子・カイ。その発言は、軍の規律を乱すものと見なす。
スキルの特性も含め、王家の後継として不適格と判断するに足る」
それが、カイの人生を決定づけた瞬間だった。
「……そうか。なら、いいよ。オレ、王子じゃなくてもやってけるし」
その笑顔は、どこか悲しげで――
けれど、確かに覚悟があった。




