―序章― 千年前、最後の勇者
世界がまだ混沌と脅威に満ちていた時代。
空は黒く、地は割れ、魔の軍勢が人々の国を蹂躙していた。
その頂点に君臨していたのが、「黒き災厄」と恐れられた大魔王【グラダ=ヴェルゼ】。
スキルを持つ者すら彼の前では無力。
その力は、神の与えし祝福さえも打ち砕く、絶望そのものだった。
人々が膝をつき、世界が沈黙を受け入れかけた時、
一人の男が、剣を手に立ち上がった。
彼の名は、レイ=アルマ。
スキル名──『勇者』。
どんな剣も扱えた。
どんな魔法も使えた。
どんな技も学べた。
……だが、全てが中途半端だった。
彼の力は、剣聖にも、賢者にも、癒し手にも劣っていた。
それでも、彼はあきらめなかった。
剣を握り、千度斬った。
魔法を覚え、万度唱えた。
薬を作り、人々を助け、歩き、笑い、叫び、倒れ、また立ち上がった。
何千日という歳月の中で、
彼の“勇者スキル”は成長し続けた。
スキルに限界がある?
そうだ──本来なら、すべてのスキルには“上限”があった。
だが、勇者だけは違った。
努力に応じて、その力を限りなく高めていける──唯一の“無限の器”。
誰もが忘れていた。
「努力によって超える」など、夢物語だと。
だがレイは、それを証明した。
あらゆる絶望を乗り越えたその男は、ついに魔王グラダを打ち倒した。
灰となる魔王の最後の言葉は、こうだった。
「貴様は……何者だ……? その力……人の限界を超えている……!」
レイはただ、微笑みながら答えた。
「オレはただの人間だ。
けど、ただの人間が……ここまで来れるって証明してやるよ」
それが、千年前の戦いの記録。
勇者と魔王の最終決戦。
だが──その伝説は、
“あまりにも地味で、派手さに欠けた”ことから次第に忘れ去られていった。
現代において「勇者スキル」は、
“器用貧乏なハズレ枠”と笑われている。
誰も知らない。
本当の“勇者”とは──
「どんな絶望にも、決して立ち止まらない者」のことを言うのだと。




