幕間 封印の綻び
その夜。
訓練の疲れで眠れぬまま、カイは一人、焚き火のそばで剣を磨いていた。
「……何が“満足してたのか”だよ。オレは……本気だったのに……」
自分なりに努力してきた。
スキルに頼らず、剣も鍛え、命がけの戦いもしてきたつもりだ。
なのに――一撃。
その不条理に、どうにも心が収まらなかった。
「不満そうだな」
いつの間にか、セランが木陰に立っていた。
焚き火の明かりに、灰の瞳が揺れる。
「……オレなりに頑張ってきたんです。
でも、あなたの言い方じゃ、全部ムダだったみたいで――」
「ムダじゃないさ。ただ……遅いだけだ」
セランはゆっくりと腰を下ろし、空を見上げた。
「……カイ、お前に話しておかねばならないことがある」
「……え?」
「俺は“ハーフエルフ”だ。だから、普通の人間より少しだけ長生きする。
……少し、な。せいぜい、千年ほどな」
カイの目が見開かれる。
「千……!?」
「かつて、初代勇者レイとともに魔王を封じた――その時代の生き残りだ。
俺たちは、魔族の封印の地を守る“番人”として、静かに生きてきた。
だが……その封印に、今、綻びが生じている」
セランの声が低くなる。
「すでに、数体の魔族が封印から漏れ出した。
王都は気づいていない。いや、気づけない。
魔族は姿を変え、人の中に潜みながら、再び“災厄の胎動”を始めている」
カイは言葉を失った。
「……それ、みんなに伝えないんですか?」
「信じる者は少ない。
人々はもう“平和”を当然と思い、“スキル”に頼る道を選んでいる」
セランは、焚き火を見つめながら静かに言った。
「だからこそ――“勇者”が必要だ。
この世界が、再び絶望に呑まれぬために。
だが、“今のままの勇者”では、届かない。お前はまだ――弱い」
「……!」
「強くなれ、カイ。
お前が剣を振るう理由を、もう一度思い出せ」
その言葉を残して、セランは立ち上がる。
夜風に外套がなびいた。
「明日も、朝から鍛えてやる。逃げるなよ、“凡夫勇者”」
カイは、焚き火の中に剣をかざしながら、拳を握りしめた。
「……オレが、止める。
絶対に、止めてみせる……!」
その瞳に宿ったのは、燃えさかる覚悟。
“誰かに守られた勇者”ではなく――
“誰かを守るための、ただのカイ”として。




