第4話 “勇者”の現在地
ガルドからもらった試作の剣を携え、カイは訓練場に立っていた。
「さあ、王都帰りの“勇者様”がどれほどやれるか、見せてもらおうか!」
対峙するのは、グレイルの正規騎士――ルーク・ジーン。
褐色の肌に深緑のマント、若いながら実戦経験豊富な曲者である。
見守る周囲の兵士たちが囃し立てる中、試合開始の合図が鳴った。
「――はっ!」
カイは素早く間合いを詰め、試作の剣を低く振るう。
ガルドがバランスを調整したその剣は、まるで手足の延長のように馴染む。
「おっ、速いじゃねぇか!」
ルークが受け流し、鋭い反撃を繰り出す。
カイはそれを読み、紙一重で回避しながらも応戦。
「……前より動きが良くなった」
「けど、まだ甘いッ!」
剣と剣が幾度も打ち合う。
訓練場には、互角の戦いに歓声が上がっていた。
やがて――
「これにて試合、引き分け!」
審判の声と同時に、両者が剣を引いた。
「いやあ、まさかここまでやるとは……王都の貴族様も、やるじゃねぇか」
ルークが笑って肩を叩く。
カイも呼吸を整えながら、軽く笑みを返した。
(……やった。少しは、通用する)
王都で“無能”と蔑まれていた自分が、今ここで一人の騎士と渡り合っている――
その事実に、心の奥底から静かな誇りがわきあがってくる。
だが。
「満足したか?」
その声は、背後から冷たく響いた。
「……え?」
ゆっくりと振り向くと、そこには――
一人の男が、訓練場の柱にもたれていた。
灰色の髪を後ろでまとめ、痩せた体に古びた外套。
腰に差した剣は鞘に納まったまま、しかし異様な“圧”が漂っている。
「セランさん……!」
ルークが姿勢を正す。
兵士たちも一斉に静まり返った。
その男は――かつて“灰の流派”と呼ばれた剣士。
百の流派を斬り伏せたという伝説の使い手にして、現在はグレイルの放浪剣士。
「……満足してたのかよ、さっきの試合で」
セランがゆっくりと歩み寄ってくる。
「スキル頼りに戦う“勇者様”が、普通の騎士と互角。
それで、もう自分は一人前だって顔だったな?」
「そ、そんなつもりじゃ……!」
「じゃあ――構えろ」
抜刀の音すらなく、セランが鞘のままカイに飛びかかる。
「――なっ!?」
一撃。
ただの一撃。
セランの鞘が放った横なぎの一閃。
カイの剣は叩き落とされ、反射的に取った防御の構えすら無意味だった。
次の瞬間、背中から地面に転がっていた。
「な、なんで……」
「まだまだ“見えてない”もんが多すぎる。
それでも、自分はやれてるって顔をするな。
お前が目指してるのは――“勇者”だろ?」
カイは、地面に這いつくばりながら、拳を握った。
(……違う。こんなんで……満足してたのか、オレ……)
セランは背を向け、最後に一言だけ投げる。
「戦いたいなら、明日から来い。
お前の剣が“変わるまで”、とことん叩き直してやる」
立ち上がったカイの頬には、泥と悔しさ、そして――ほんの少しの熱が残っていた。




