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第2話 少女リアと、鍛冶屋の轟音


グレイルでの生活が始まって三日。


朝は訓練所、昼は雑務、夜は戦闘記録の復習――

王都では想像もできなかった“地に足の着いた修行”がカイの日常となっていた。


「王子様、って顔じゃなくなってきたな」

訓練所の騎士に、そんな冗談を言われることすら心地いい。


その日、カイは市場で昼食を買っていた。

すると、広場の奥で誰かが倒れている。


「お、おい、大丈夫か!?」


駆け寄ると、そこにいたのは――


年の頃はカイと同じくらいの少女。

日焼けした腕に土のついた服。

それでも目だけは強く、どこか諦めを許さない色をしていた。


「……転んだだけ。別に助けてもらわなくてよかったんだけど」


「いや、でも……」


「“勇者”様のご登場?庶民の泥なんて触って平気なんだ?」


その言葉に、カイは肩をすくめて笑う。


「勇者っていっても、ただの修行中の身だし。泥くらい平気だよ」


「……変なの」


少女はそう言いながらも、差し出された手を取った。


「名前は?」


「リア。あんたは?」


「カイ。えーっと、ただのカイ」


少女――リアは、グレイル近郊の村から奉仕に出てきているという。

スキルは持っていない。けれど、身のこなしや目の鋭さには光るものがあった。


「スキルがないって、そんなに大変なのか?」


「王都ほどじゃないけど、ここでも“役立たず”って言われるよ。

 でもね、あたしは“あたしの力”で生きてるの。スキルなんかに、人生決められたくない」


リアの言葉は、どこかカイの心を揺さぶった。

(……スキルがあるからこそ、迷ってるオレとは、逆かもしれない)


「リア、そのうちまた話そう。なんか……勉強になりそうだからさ」


「ふん、あたしはあんたから学ぶつもりはないけど」


そう言ってそっぽを向いたリアの顔には、ほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。


その日の夕刻、訓練場に戻ったカイを待っていたのは――


「おいおい、やっと見つけたぞ!勇者さまぁ!」


突然、背後から抱きつくように跳びついてきた少年。


小柄な体格に、大きなハンマーを背負っている。

髭もまだ生えない年齢だが、腰には本格的な工具袋が揃っていた。


「……誰?」


「おれっち? ドワーフ族の天才鍛冶師見習い――ガルド・ハンマーシンさ!」


「……知らないなあ」


「うわー、ヒド! この前助けてくれた村で、おれっち見てたもん!

 ゴブリンの腕、シュパーン!ってやってたの!

 マジでカッコよくてさ!おれっち、弟子になりたくて王都まで追ってきちゃったの!」


どうやら、カイがかつて魔物から救った村にいた少年らしい。

ドワーフの中でも珍しい「鍛冶の練達」を幼くして発現していたという。


「オレの剣、まだ決まってないんだけど……」


「だからだよ!おれっちが、その剣を作る!見つける!磨き上げる!」


この日、カイは思った。


(……なんか、いろいろと騒がしくなってきたな)


だが、不思議と悪くない気がした。


自分のスキルに疑問を抱き、何も持たずに飛び込んできたこの地で、

“スキルがなくても生きる少女”と“剣を鍛えたい少年”という出会い。


この二人が、これからの旅路でどれほど大きな存在になるか――

この時のカイは、まだ知らなかった。

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