第二章スタート 第1話 辺境の城塞都市グレイル
王都を発って数日。
カイは広がる森と荒れた道を馬車で揺られ、やがて――その姿を目にした。
大地を割るように立つ、石造りの城塞都市。
山間に築かれた灰色の城壁が、遠くからでも威圧的にそびえている。
「……これが、グレイル領……」
王都での贅沢な造形とは違い、どこまでも“実用性”を突き詰めた造り。
守るために建てられ、耐えるために育った都市。
門をくぐったとき、周囲の兵士たちが一斉に視線を向けた。
そのほとんどが、年若くとも鍛えられた者たち。
そして、その中にひとり――
「よく来たな、カイ」
ロア・ヴェルトが立っていた。
灰銀の髪を風に揺らし、静かな笑みで迎える姿は、どこか誇り高き聖騎士のようでもあった。
「旅の疲れ、あるだろう。だが、こちらも容赦はせんぞ。
ここは“実力が全て”の地だ。王子であろうと子供であろうと関係ない」
「わかってます。……“カイ”として来たんで」
「なら上等だ」
ロアは手を上げ、付き従う若者たちに命じる。
「訓練場を見せてやれ。
……“勇者”がどこまで使い物になるか、見定めるぞ」
都市の内側は、意外にも活気にあふれていた。
市場では獣肉や薬草が取引され、鍛冶屋からは金属を打つ音が響き、
子供たちが剣を振るう訓練場の横を馬が駆け抜けていた。
「王都より……すごいかも」
街の力は、制度や建物で測れるものじゃない。
生きる者たちが“自分で立っている”こと――それがこの場所の強さなのだと、カイは直感した。
訓練場に着くと、試しに木剣を手に取り、数回素振りをしてみる。
ロアの部下たちが腕組みしながら見守る中、カイの姿勢が変わった。
王都でのぬるい訓練とは、気の入り方が違う。
「目が変わったな」
そう呟いたのは、訓練場の片隅にいた壮年の騎士。
「……この地で“生きるために強くなる”。
その意味がわかるようなら、お前はこの地で伸びる」
その夜、カイはロアから一通の手紙を渡される。
「これは、お前のための推薦状だ。
……グレイルの鍛冶師協会、そして実戦訓練所へ向けたものだ」
「え?オレ、明日からもう動くんですか?」
「明日から“勇者”じゃなく、“お前自身”として動く。
その覚悟があってここへ来たのだろう?」
カイは、拳を軽く握りしめた。
「……はい!」
こうして、再誕の地――グレイルでの新たな日々が始まった。
ここはもう、王子ではない。
何者でもない少年が、“自分の剣”を探すための最初の戦場。
その足音が、静かに響き出していた。




