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幕間 見送りの街角

王都裏門へ向かうカイの足取りは、思いのほか重くなかった。

だが、誰にも告げずに出ていくつもりだったその道に――


「……あれ?」


道の脇に、小さな影。


それは、訓練場の端にいつもいたリンゴ売りの老婆だった。

幼いころから、剣の稽古を終えるたびに一つくれていたあの赤い果実を、今日も手にしていた。


「……リンゴ、忘れてるよ」


皺の刻まれた顔が、優しくほころぶ。


「昔みたいに、疲れた顔してないね。ようやく、おまえさんらしくなった」


カイは照れたように笑って、リンゴを受け取った。


一歩進むと、今度はどこかで香ばしい匂いが漂ってきた。


「おう、王子――いや、カイ坊!」


声の主は、城下の定食屋「ルシエラ亭」の店主。

元は王妃付きの宮廷料理長で、カイに内緒でよくおにぎりやスープを振る舞ってくれていた人物だ。


「腹減ってんだろ? 最後にこれ食ってけ」


店主が手渡したのは、特製の肉まんとあったかいスープ。

カイは思わず目を潤ませながら受け取った。


「……ありがと、親父さん。オレ、この味、忘れねぇよ」


さらに通りを曲がると、そこには――

かつてカイが魔物から救った村の人々が、わざわざ王都まで足を運んで集まっていた。


「王子さま……じゃなかった、カイさん!」

「うちの子を助けてくれてありがとう!」

「元気でね、絶対負けないでね!」


涙ぐむ老女。花束を差し出す少女。

木彫りの守り札を渡してくれる青年。


カイはそのひとつひとつに、しっかりとお辞儀をして受け取った。


「……こんなにたくさん、オレのこと……」


街角に集まった人々の声が、カイの背中を押していた。


「オレ、王子じゃなくなるのに」


「カイだからだよ」


振り返ると、そこにセランとロアが立っていた。


「おまえが誰かを思って動いたから、皆がおまえを見ていた。

 王子だからじゃない――カイだからだ」


カイは胸に手を当て、深く息を吸った。


「……よし、行こう。

 この道の先に、きっとオレの剣がある。

 そして、いつかまたこの街に戻って――“ただのカイ”として、みんなに誇れる男になって帰ってくる」


城下の道を背に、彼は歩き出した。


拍手はなかった。

音楽も、兵の行進もなかった。


けれど――それ以上に、あたたかい空気がそこにはあった。



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