第9話 王都を去る朝
朝靄の残る王都。
その裏門に、一人の少年が立っていた。
薄手の旅装。
荷は小さな背嚢ひとつ。
腰には名もない片刃の剣――セランから受け取った無銘の剣。
彼の名はカイ。
王国第三王子にして、“勇者”というスキルを持ちながら――
その力が軽んじられ、王都からの追放を言い渡された少年である。
門を見上げると、無言で見送る城兵の姿。
だが、誰一人として敬礼もしなければ、頭を下げる者もいない。
“もう、王子じゃない”――
その事実が、こんなにもはっきりと突きつけられるとは思わなかった。
それでも、カイの顔に影はなかった。
むしろ、どこか清々しいような微笑を浮かべていた。
足音が一つ、背後から近づく。
「……カイ」
ロア・ヴェルト。
グレイル領の領主にして、千年前の勇者レイの仲間の末裔。
彼はこの旅立ちに際し、自ら馬を伴って見送りに来ていた。
「もう迷いはないか?」
「ないよ。
“王子”のカイとしてじゃなくて、“ただのカイ”として始める。
そう決めたから」
ロアはうなずき、懐から一枚の布を取り出した。
中には、王家の紋を消した一枚の金貨が収められていた。
「これは、君が“王子”でなくなった証。
王家の名を背負わず、自分の名で立つための通過儀礼だ。
これを持って、グレイルまで来なさい。門は開けておく」
「ありがとう、ロアさん」
そして、ふと空を見上げた。
そこには――どこまでも晴れ渡る、澄んだ青空。
(……旅は、これからだ)
王都の道を、背を向けて歩く。
その背に、誰の影もない。
けれど、彼の中には確かに、いくつもの言葉が残っていた。
「“自分の剣を見つける”。
“諦めなければ、必ず届く”。
“選ばれなかったからこそ、自分で選ぶ”。――オレの旅は、そこから始まるんだ」
足音が、静かな都を遠ざかる。
門が、ゆっくりと閉ざされる。
こうして――
“勇者”カイの旅は、始まった。
【第一章 追放編 完】




