間章 抜けぬ剣、語られる運命
王都の南端。
誰にも知られぬように封じられた森の奥深く。
そこには、かつての英雄が剣を託した祠があった。
セランはその祠へと、カイを黙って連れてきた。
祠の中央には、一本の剣が突き立っている。
柄は金と赤の装飾がなされ、刃の根元には消えかけた文字が刻まれていた。
「これが……勇者レイの剣……?」
セランはゆっくりと頷く。
「ああ。千年前、“勇者レイ”が最後まで使い続けた剣、《真焔》だ。
戦いの果てに、レイはここにその剣を突き立てていった。
“次にこの剣を抜く者こそ、新たなる英雄”……そんな言葉を残してな」
「じゃあ、抜けるかどうか試してみろってこと?」
「ま、言ってみりゃそういうことだ。
ただし、剣に選ばれる必要はねぇ。おまえがどんな決断をするか――それを確かめる場所だ」
カイは剣の前に立ち、手を伸ばす。
柄に触れた瞬間――世界が止まり、意識が遠のいていく。
白い虚空。
周囲は何もなく、ただ剣の姿だけがそこに在った。
やがて、その剣から、声が響いた。
『名を……名を名乗れ、“勇者”よ』
カイは少し戸惑いながらも答える。
「カイ。第三王子……スキルは“勇者”」
『また“勇者”か。……だが、まだ未熟だな。
おまえはなぜ剣を求める』
「誰かを救いたいからだ。
……この力が中途半端でも、命のために振るえるなら、それでいい」
沈黙。
『勇者レイも、私を抜けなかった。
だが彼は、自らの剣を見つけ、戦い抜いた』
『おまえもまた、私を抜くには至らぬ。
だが……おまえは、“己の剣”に出会う運命にある』
カイは、眉をひそめた。
「じゃあオレは……この剣じゃなくて、別の剣を選ぶってことか?」
『いずれ、その時が来る。
そしてその時、おまえは“私”と戦うことになる』
「え……?」
『この剣――“真焔”は、次なる“担い手”に選ばれようとしている。
だがその者の意志が、“正義”とは限らぬ。
おまえは、おまえ自身の剣と共に、その“焔”に立ち向かうことになるだろう』
『運命の分かれ道は、いずれ訪れる。
我が名を忘れるな、勇者カイ。……その時が来たなら、私の焔は試練となる』
声が遠ざかる。
白の空間が砕けるように消え、現実へと意識が戻る。
カイは剣の前に立ち尽くしていた。
柄に触れていた手は、自然と離れていた。
剣は、一ミリも動いていない。
セランが問いかける。
「……何か、見えたか?」
「うん。……剣と話した。
剣は……“オレじゃない誰か”に選ばれるって。
そしてオレは、“その誰か”と戦うことになるって……」
セランは一瞬だけ眉を動かす。
「そいつが“選ばれた者”なら、おそらくは王族の誰かだろうな。
――まさか、レオンか……」
「レオン兄さんが?」
「もしそうなら……あの剣の焔は、おまえにとって試練になる。
それでも、行くか?」
カイは小さく笑った。
「行くよ。オレの剣がどこにあるかは分からないけど――
でも、あの剣が戦うって言うなら、オレも立ち向かってやる」
森に風が吹き、祠の中に小さな火音のような揺らぎが生まれた。
それは、焔の剣が――次なる時を、静かに待っている証だった。




