第8話 名乗り出る聖戦士
王都評議会が解散して間もなくのこと。
王家の書記官により、第三王子カイの“辺境派遣”は粛々と手続きされていた。
事実上の追放――だが、建前では“修行と更生”という形を取られていた。
その中で、名乗りを上げた者がいた。
「その少年を、我がグレイル領に迎えたい」
荘厳な衣を身にまといながらも、どこか民草の温もりを思わせる男。
彼の名は、ロア・ヴェルト。
聖律の血を引き、千年前の勇者の仲間の末裔とされる領主だった。
その申し出に、議場がざわめいた。
「グレイル領など、魔の地と変わらぬ辺境ではないか」
「それほどまでに、“勇者”に執着するとは……」
ロアは静かに言った。
「私の地は、決して豊かではない。だが、人は育つ。
そして私は、かつて“勇者レイ”と並び立った男の末裔として、
この少年を見過ごすことはできない」
レオンが椅子から身を乗り出す。
「くだらん幻想に縋るつもりか、ロア。
“勇者”の血など、とうに絶えた。目の前にいるのは、ただの無能だ」
ロアは、それにも笑みを崩さず、はっきりと答えた。
「いいえ。あの少年の中には、“誰かのために力を使いたい”という炎がある。
それはかつて、我らが信じた勇者と、まったく同じものだ」
ジークが冷笑する。
「力も知恵も中途半端。感情に流され、秩序を乱す。
そんな者を領に入れれば、民の士気が崩れるだけだ」
「ならば、試してごらんなさい」
ロアの声がわずかに低くなった。
「民が何に希望を抱くのか――
それは、圧倒的な力でも、完璧な知性でもない。
たとえ未熟でも、誰かのために立ち上がる姿だ」
静まり返る中で、ロアはカイに視線を向ける。
「カイ。おまえが望むなら、我が領に来るがいい。
“王子”の名ではなく、“おまえ自身”の意志で立て」
カイは一瞬だけ、目を伏せた。
そして、ゆっくりとうなずいた。
「はい……お願いします。オレ、もう王子じゃなくていい。
ただのカイとして、誰かを守れるようになりたいんです」
その日の夕暮れ、王城の裏門。
カイは旅支度を整えた小さな荷を背に、出発の準備をしていた。
そこへロアが近づき、短く言った。
「これより先、おまえの名に“王子”の肩書きはない。
だがその代わり、“己の行い”が、おまえを名乗らせる」
カイは笑った。
「なら……オレ、“ただのカイ”として、やってみますよ」




