32話 優越感だねぇ
「……えーと、さ、ジンタン。今のこの状況ってさ、ジンタンがホルマリン漬けの殺人鬼の負のエネルギーを喰らって終わりってパターン……だよね?」
タケルは困惑した表情で言った。
「なーんで貴様を助けるためにワシだけが苦労しなきゃぁならんのだっ!ワシがお前を殺さずに生かしてやってるのはなぁ、ワシの力だけじゃどうにもならん事があるからようっ!!」
動く人体模型は怒鳴る。
「え?マジ?ジンタンでもどうにもならない事って……?」
「お前の目は節穴か?よく見ろ!」
動く人体模型は、顎で床を指す。
すると、そこには先程一年前のタケルと一緒に落ちたホルマリン漬けの殺人鬼の手首が……体から離れたにもかかわらずうごめいていた。
「うわっ!動いてるっ!!ど、どういうことだよ!?」
タケルは汚物を見るような目でそれを見て言った。
「……都市伝説の力の源である負のエネルギー。それを喰らう事が出来るのがワシの能力よう。ま、貴様は何故か既に知っていたようだがな。」
「うん。まあそれ以上の事も知ってるけどね。ジンタンの正体とかさ。」
「ええっ!!……ごほん。まぁ、今はそれは置いといてだな。あの手首は、ワシが負のエネルギーを喰らったにもかかわらず動いているのよ。つまり……」
動く人体模型がそこまで話した時、ホルマリン漬けの殺人鬼が割り込むように会話に入ってくる。
「……つまり、俺が負のエネルギーを使ってるのは、体を治癒させる為だけ。俺が不老不死なのは負のエネルギーのせいじゃないって事だよ。キシシシシシィ……。」
「なっ!」
驚くタケル。
「おいおい。油売ってていいのかぁ?治癒に使えるのは、負のエネルギーだけじゃないんだぜぇ!」
邪悪に笑うホルマリン漬けの殺人鬼。何かに気づいた動く人体模型はタケルに向かって叫ぶ。
「ヤバいぞ人間っ!!ヤツの手首は床に落ちて、ただうごめいてただけじゃねぇっ!標的は気絶してる方のお前だよっ!!お前の命を治癒に使おうとしてたんだっ!!」
「えーーーーーーっ!ドドドドドドドドドッドーーぉしようっ!!」
慌てふためいて土ラ◯もんの新主題歌を口ずさんでしまうタケル。
「何の歌かわかんねーが、お前が未来で生きてるって事は、切り抜ける方法があるって事だろ!?しっかりしろよ人間っ!!」
動く人体模型はタケルにハッパをかける。
そして、気絶している一年前のタケルの元へ向かうホルマリン漬けの殺人鬼の手首の前に立ち塞がる。
「しょうがねえ。時間稼ぎしといてやるよっ!」
動く人体模型は言った。しかし!!
「……治癒はお前の負のエネルギーでも良いんだぁっ!!」
ホルマリン漬けの殺人鬼がそう叫び、手首が動く人体模型に飛びかかる!
「うわぁっ!」
動く人体模型は悲鳴を上げるが、その目は飛びかかる手首に対応し、その両手は手首を掴みにかかる。
ガシッ!
動く人体模型は、両手でホルマリン漬けの殺人鬼の手首をしっかり掴んだ。しかし、嫌な危機感を覚え、反射的に掴んだ手首を投げ捨てる。
それは0コンマ数秒ほど。
が……、直後、彼はガクッと膝を折り床にうずくまってしまう。
「ど、ど、どうしたんだよジンタンッ!」
動く人体模型を心配するタケル。
「クソッ!ワシとしたことが、負のエネルギーを持っていかれた……。」
悔しそうに言う動く人体模型。
「キシッ。残念。負のエネルギー頂いたぜぃ。」
放り投げられた手首は、ホルマリン漬けの殺人鬼の本体へ戻ると、元の位置に収まる。接合部も傷一つなく綺麗に埋められていく……。
「……良い負のエネルギーだ。ま、治癒できれば良いか悪いかなんて関係ねぇけどなぁ。キシシシ。けど、首を付けるのにはまだ足りないなぁ。」
そう言ったホルマリン漬けの殺人鬼の首が、8本の脚を使って首なし男から起き上がる。
人の頭に蜘蛛の脚がついたようなそれは、蜘蛛のような動きでそこから飛び降りると、
「手っ取り早く、気絶したガキの首をハネて命を奪ってやるよぉっ!!」
そう叫んで物凄い勢いで一年前のタケルへ向かった。
「くっ!負のエネルギーを吸われすぎて動けねぇっ!人間っ!自分の事だろ?なんとかしろっ!!」
動く人体模型の言葉は、タケルには無茶振りにしか聞こえない。
「そ、そんな事言われてもっ!!」
どうすれば良いんだ!?
必死に考えるタケル。
そんなタケルに一筋の光明が見える。
「そ、そうだっ!未来の俺が助けに来るってのはどうだ?ほら、助けてもらった後に助けに行けば良いじゃん!!幽体離脱中なら時間も自由に移動出来るしさっ!!」
正に妙案!これでタケルは救われるのか?
「……駄目だ!」
と動く人体模型は言う。
「なんでだよっ!!」
「あるんだよ!大長編のラストに似たようなヤツがようっ!!それと、キアヌなにがしが出演した映画でもあった。どっちも電話BOX被りのヤツだ!!」
「訳わかんねー!話が似てても関係ねーじゃねーかっ!!」
「駄目なんだよっ!パクりは駄目なんだっ!それによう、未来から来たお前と遭遇すれば、消滅するんだろ?こんな時にだけ偶然にドッペルゲンガーは発動しませんなんて虫の良い話じゃねーだろうがっ!!同じ人間が3人も集まりゃあ、そらぁ消滅のリスクは限りなく100パーセントに近づくぞっ!!」
「はわわー。わ、忘れてた……!!」
混乱し過ぎて今まで使った事のない言葉を使ってしまうタケル。
そして、ホルマリン漬けの殺人鬼は余裕の表情で、気絶したタケルの背中の上から2人のやり取りを眺めていた……。
「優越感……だねぇ。キシシ。」




