閑話 或兵士の回顧録より
・・・我々が森へ進攻した時は恐怖で頭がどうにかなるかと思った。入って暫くすると奇襲を受けた。奴らの神経は異常だと思った。軽戦車を含む偵察隊を前方に配置しているから最悪退路を断たれ包囲、全滅という可能性だってあるのに本隊へ待ち伏せをかけた。
その時俺は撤退する奴らは偵察隊との挟撃で全滅だと思っていたが、後から聞いた話では別動隊がいて偵察隊にも同じ様に待ち伏せし、その混乱に乗じ逃げたというわけだ。
その後、今度は狙撃があった。この時奴らは二発撃った。それで敵の位置を大まかに掴めたらしいのだが何時仕込んだのか何かの爆発物に点火してそれに気を取られているうちに逃げらちまった。
それで終わりだったら良かったのだが現実はそう甘かなかった。奴らは戦車を擬装させてこちらが側面を晒すまで待ち、撃った。そして一発撃ったら直ぐ逃げるから撃破もできない。一々戦闘態勢になってまた解除、を繰り返すから精神もすりへっていく。
この嫌がらせ攻撃への対抗策として歩兵隊を下車させて戦車隊の真横を歩かせた。視界の悪いシャーマンの目代わりとして、そして素早くバズーカで反撃できる存在として。それで一回二回は何とかなった。だが今度は歩兵を待ち伏せさせるようになった。これもまた数発撃って逃げていくのだが、戦車より位置がつかみにくいから余計に精神的負担と損害が出た。
これはこれで十分厄介だったのだが、更に厄介だったのがいた。そいつらは本隊に狙撃してくる奴らよりもっと神経がどうにかしていた。本隊の後方かそれよりもっと後ろにいる隊長級の兵を狙ってきやがった。分隊長、小隊長くらいなら戦死することも間々あるし、死んでもいいなどというつもりは無いが何とか対応はできたし司令部にとっても痛いが許容範囲内だったらしい。だが中隊長、大隊長となってくると話は別だ。あそこが頻繁に変わるのはまずい。事実、うちの中隊長もあの戦いで三回は変わり、その度に指揮系統だの何だのと問題が発生した。
いきなり目の前を行く奴が頭を撃ち抜かれて死ぬのを何度も見て、しかも自分はその敵を倒すことができないとなりゃ気がおかしくなってしまう奴も出てくる。そして、おかしくなっちまった奴は生きてあの島を出ていない。
奴らは隠れるのが本当に上手かった。そこにいると分かっていたとしても周囲の風景と区別するのが難しいほどに、だ。その上逃げ足も速く、対抗するには「敵が攻撃する前もしくは攻撃直後に」「最低限敵が移動不能になるだけの攻撃を」「二、三発以内で」加えなければならなかった。そして、それを達成できたのは殆ど無かった。だが、森を抜けてからはほんの少しその割合が増えた。ほんの少しだが。
その後、俺は北の部隊として飛行場攻撃に参加した。何処にも、誰もいないし「いなかった」というのは非常に不気味だった。
そして、あの撤退戦――「戦」と呼んでいいのかは分からんが――だ。俺は跳躍地雷を踏んでしまった。25ミリ機銃の弾を改造したような見た目のものが目の前に来たとき、俺は死を覚悟した。だが、仲間が庇ってくれた。そのお陰で今こうしてこれを書いている。だが、今でも俺の為に死んだ彼のことを考えると死に損なってしまったという気持ちになる。
あいつが身を挺してくれた命だ、大切にしなければならんのだろう。だが、あの後のことを思うとあの場で死んでいた方が楽だったかもしれない。・・・




