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学校の怪異  作者: qp46
第三章 怪異とは

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九話 友人との距離感

 若菜の様子がおかしかった。


 最初にそう思ったのは、麗奈が死んでから二日後だった。


 教室の空気はまだ重い。誰も大きな声を出さず、笑い声も減った。ふとした瞬間に、みんな四階の方を見てしまう。


 そんな空気の中でも、若菜だけは頻繁にスマホを見ていた。


「ねぇさくら、これ見た?」


 昼休み。若菜はスマホ画面をこちらへ向けてくる。


 学校の匿名掲示板だった。


 


『昨日また四階で見た』


『白い女マジでいる』


『次は誰?』


 


 不安を煽るような書き込みが並んでいる。


「また増えてるよ。“見た”って人」


 若菜は不安そうに呟く。


「みんな怖がってるね……」


「……そうなんだ」


 さくらは曖昧に笑う。


「でも、あんまりそういう話しない方がいいよ」


「だって怖くない?」


 若菜は画面を見つめたまま続ける。


「また誰か死んだらどうするの……」


 その時だった。


 教室の前へ、高橋由奈が現れる。


 教師と話しながら、小さく頭を下げていた。


 教育実習は中止になったらしい。


 顔色も悪い。


 由奈は教室へ入ると、生徒たちへ向かって静かに頭を下げた。


「短い間だったけど、ありがとう」


 どこか無理に笑っているように見えた。


「……本当は、ちゃんと最後までやりたかったんだけどね」


 教室の空気が静まる。


 誰も何を言えばいいか分からない。


 その時、由奈の視線がさくらへ向いた。


「佐野さん、ちょっといいかな」


 さくらは少し驚きながら席を立つ。


 廊下へ出ると、由奈は少し言いづらそうに視線を落とした。


「ごめんね、変なこと聞くかもしれないんだけど……」


「……はい?」


「昨日、清人さんと電話してたよね?」


 さくらは小さく頷く。


「うん」


 由奈は困ったように笑った。


「聞くつもりじゃなかったんだけど、“昔の事故に似てる”って聞こえちゃって」


 その瞬間、さくらの表情がわずかに止まる。


 由奈は続けた。


「清人さん、あんまり話したがらなくて……」


 少し迷うように口を閉じる。


 そして、小さな声で聞いた。


「……あの、もしかして」


「やましいこととか……じゃ、ないよね?」


 不安そうな声だった。


 疑いたいわけじゃない。


 むしろ、信じたいから確認している。


 そんな声音だった。


 さくらは小さく笑う。


「大丈夫だよ」


「……そっか」


 由奈は少しだけ安心したように息を吐く。


「変なこと聞いてごめんね」


「別に気にしてないよ」


 そう言って笑った時だった。


 ふと視線を感じる。


 廊下の奥。


 若菜がこちらを見ていた。


 何かを考えるみたいに、じっと。


 目が合った瞬間、若菜は慌てたように笑った。


「……若菜?」


「ご、ごめん。呼びに来ようと思って」


 どこかぎこちない。


 さくらは小さく違和感を覚えながらも、「先戻ってて」とだけ返した。


 


     ◇


 


 放課後。


 さくらは帰り支度をしながら、ふと若菜を見る。


 若菜は一人でスマホを見つめていた。


 何かを打ち込み、少し考えて、また消す。


 その繰り返し。


 以前の若菜なら、こんなふうにスマホばかり触ることはなかった。


「……先帰るね」


 さくらが声を掛ける。


 若菜は顔を上げ、少しだけ慌てたように笑った。


「あ、ごめん」


「別に謝んなくていいって」


「……うん」


 少し沈黙が落ちる。


 その空気が妙に重くて、さくらはなんとなく目を逸らした。


「じゃあまた明日」


 そう言って教室を出る。


 だが廊下を歩きながら、さくらは小さく息を吐いた。


 最近の若菜は少し変だ。


 いや。


 変というより——近すぎる。


 昔から真面目な子だった。


 人の顔色をよく見て、頼まれたことは断れないタイプ。


 でも最近は違う。


 まるで、“自分のために動くこと”が目的になっているみたいだった。


 さくらはスマホを取り出す。


 画面には、若菜とのトーク履歴。


 未読メッセージが何件も並んでいる。


 


『大丈夫?』


『ちゃんと寝れてる?』


『何かあったら言ってね』


『私はずっとさくらの味方だから』


 


 その文字を見た瞬間、さくらはなぜか少しだけ息苦しくなった。


 


     ◇


 


 教室には、若菜だけが残っていた。


 静かな空間。


 雨の音だけが窓の外から聞こえてくる。


 若菜はスマホを胸元で握りしめた。


 どうして。


 どうして最近、さくらは少し距離を取るのだろう。


 ちゃんと頑張った。


 噂も流した。


 みんな怖がってくれた。


 さくらのためになると思った。


 なのに。


 


 ——何か間違えた?


 


 若菜は小さく首を振る。


 違う。


 まだ足りないだけだ。


 


 もっと役に立たなきゃ。


 もっと必要って思ってもらわなきゃ。


 


 その時。


 スマホが小さく震えた。


 若菜はゆっくり画面を見る。


 


『次』


 


 その一文字だけが表示されていた。


 若菜は、それを見つめたまま静かに笑った。

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