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学校の怪異  作者: qp46
第二章 過去の事故

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六話 その後

 校門の前に、パトカーが停まっていた。


 黄色い規制線。


 その前で立ち止まる生徒たち。


 朝の学校とは思えない空気に、西本拓実は思わず足を止める。


「……は?」


 空は灰色だった。


 昨夜の雨がまだ地面を濡らしている。


 校門の周囲には警察官までいた。


「マジでやばくね?」


「四階から落ちたって……」


「救急車来てたらしい」


 小声があちこちから聞こえる。


 拓実は嫌な予感を抱えたまま、人混みの隙間から校舎を見る。


 その時だった。


「だから見たんだって!!」


 突然、大きな声が響く。


 拓実は反射的に振り向いた。


 綾人だった。


 顔色が真っ白だった。


 教師と警察官に囲まれながら、必死に何かを訴えている。


「四階にいたんだって! 白いやつが……!」


「落ち着け、西条」


「でもマジでいたんだって!!」


 綾人は半ば錯乱したみたいに声を荒げていた。


 周囲の生徒たちが不安そうにざわつく。


「白い女……?」


「やっぱ噂の……」


「いや、やめろって」


 拓実の喉が嫌な感じに乾く。


 綾人は普段、あんなふうになるタイプじゃない。


 だから余計に気味が悪かった。


 その時だった。


 校舎裏の方から、救急隊員たちが現れる。


 中央にはストレッチャー。


 白いシーツを掛けられた誰か。


「っ……」


 周囲の空気が一気に張り詰める。


「え、あれ……」


「誰?」


「田中ってマジ?」


「嘘でしょ……」


 拓実の心臓が強く脈打つ。


 白いシーツが、風でわずかに揺れた。


 一瞬だけ。


 中に誰かがいる輪郭が浮かび上がる。


 その生々しさに、拓実は思わず目を逸らした。


 その時だった。


「……え?」


 掠れた声が聞こえた。


 斎藤遥香だった。


 白いシーツを見たまま、立ち尽くしている。


「……うそ」


 顔色がみるみる青ざめていく。


「待って……」


 次の瞬間。


 遥香は人混みを押しのけて駆け出した。


「待って……っ!!」


 警察官が慌てて前へ出る。


「危ないので下がってください!」


「違っ……だって、そんな……!」


 遥香の声が震える。


 近づこうとして。


 でも途中で足が止まる。


 白いシーツ。


 そこから少しだけ見える、濡れた髪。


 遥香の表情が崩れた。


「……やだ」


 掠れた声だった。


「……やだよ……」


 その場へ崩れ落ちる。


 周囲の生徒たちは誰も動けなかった。


 警察官の怒号だけが響く。


「離れてください!」


「写真撮るな!!」


 異様だった。


 完全に、いつもの学校じゃない。


 


     ◇


 


 しばらくして、教師たちが生徒の前へ集まった。


 担任の顔色も悪い。


「……本日は臨時休校になります」


 周囲がざわつく。


「現在、警察による確認が続いています。生徒は校舎へ入らず、そのまま帰宅してください」


 静かな声だった。


 けれど、生徒たちの不安は消えない。


「やっぱマジなんだ……」


「田中さんなの?」


「四階って……」


 怪談の名前が、また小さく広がっていく。


 白い女。


 四階の空き教室。


 昨日まで笑い話だったはずなのに。


 今は誰も笑っていなかった。


 


     ◇


 


 人混みの奥で、佐野さくらを見つけた。


 俯いたまま、小さく肩を震わせている。


 その近くには、高橋由奈もいた。


 由奈はさくらへ寄り添うように立ちながら、心配そうに顔を覗き込んでいる。


 けれど、その表情にはショックも混ざっていた。


 唇を強く結び、無理に気丈でいようとしているみたいだった。


「……さくら」


 拓実は思わず声を掛ける。


 さくらがゆっくり顔を上げた。


 目が赤い。


 泣き続けていたのだとすぐ分かった。


「……拓実くん」


 掠れた声だった。


 胸が痛む。


 昨日まで普通だった。


 それなのに。


「……大丈夫か?」


 そんな言葉しか出てこない。


 さくらは小さく首を振った。


「……わかんない」


 弱々しく笑おうとして、失敗する。


 その顔を見て、拓実は余計に苦しくなった。


「……無理すんなよ」


 さくらは小さく頷く。


 その時だった。


 妙な視線を感じる。


 拓実は顔を上げた。


 少し離れた場所。


 木下若菜が、静かにこちらを見ていた。


 周囲から距離を置くみたいに、一人だけ後ろに立っている。


 表情はいつも通りだった。


 なのに。


 なぜか妙に気味が悪い。


 その時。


 若菜がゆっくり視線を動かす。


 見ていたのは——四階だった。


 東側の端。


 噂の空き教室。


 拓実もつられて視線を向ける。


 灰色の窓。


 誰もいないはずの場所。


 その瞬間。


 窓ガラスに、白いものが映った気がした。


「っ……」


 拓実は息を止める。


 けれど次の瞬間には、もう何もない。


 雨雲が流れるだけだった。


「……なんだよ」


 気のせい。


 そう思いたかった。


 


     ◇


 


 その後、生徒たちは解散することになった。


 拓実は帰り支度をしているさくらへ声を掛ける。


「……送ってこうか?」


 さくらは少し驚いたように顔を上げた。


「え……」


「一人じゃ危ないだろ」


 すると。


「なら、私が一緒に帰る」


 静かな声だった。


 若菜だった。


 いつの間にか、すぐ後ろに立っている。


 拓実は思わず振り向いた。


 若菜は無表情のまま、さくらを見る。


「今日は一人にしない方がいいと思う」


 その言葉は正しい。


 正しすぎて、反論できない。


「……そっか」


 拓実は小さく頷くしかなかった。


 さくらも、ゆっくり若菜を見る。


「……ありがとう」


 若菜は小さく微笑んだ。


 その瞬間。


 なぜか、拓実の背筋に寒気が走る。


 笑っている。


 ちゃんと笑っているはずなのに。


 どうしてか。


 その表情が、ひどく冷たく見えた。

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