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学校の怪異  作者: qp46
第一章 四階の白い女

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二話 雨の日の校舎

 教育実習初日というのは、思っていた以上に疲れるものだった。


 高橋由奈は職員室の椅子へ深く腰を下ろし、小さく息を吐く。


 慣れない学校。


 初対面の教師たち。


 元気すぎる生徒たち。


 朝からずっと気を張っていたせいで、肩が重かった。


「高橋先生、大丈夫ですか?」


 隣の席の女性教師が苦笑する。


「顔、結構疲れてますよ」


「あ、やっぱり出てました?」


「初日はみんなそんな感じですよ」


 由奈もつられて笑った。


 窓の外では、また雨が降り始めている。


 六月特有の、重たい雨だった。


「でも三年生、思ったより落ち着いてますね」


「今年は比較的静かな方ですね。佐野さんとかいるし」


「佐野さん?」


「さくらちゃん。美術部の」


 由奈は少しだけ目を瞬かせた。


「あぁ……」


 自然と笑みが漏れる。


 昔から、あの子は目立っていた。


 顔立ちも綺麗で、人当たりもいい。


 誰にでも優しくて、自然と人が集まるタイプ。


「成績もいいし、美術の賞も結構取ってるんですよ」


「そうなんですね」


「男子人気もすごいですけど、女子からも好かれてますね。先生受けもいいし」


 由奈は曖昧に笑った。


 確かに、今日一日見ていただけでも分かる。


 さくらの周りには自然と人が集まっていた。


 けれど。


 少しだけ、不思議な子だと思う瞬間もある。


 笑っているのに、時々まったく感情が見えなくなる。


 そんな瞬間が、ごくたまに。


「そういえば」


 隣の教師が急に声を潜めた。


「高橋先生、怪異の噂って聞きました?」


「怪異?」


「ほら、最近生徒たちが騒いでるやつです」


 由奈は思わず笑ってしまう。


「あぁ、白い女がどうとか」


「毎年この時期になるんですよねぇ」


「先生まで言うんですか?」


「私は信じてませんよ?」


 教師は肩をすくめた。


「でも去年、警備員さんが“夜の校舎に誰か立ってた”って騒いだことはありましたね」


「結局、誰だったんですか?」


「分からないままです」


 その時だった。


 ——ガタン。


 廊下の奥で、大きな音がした。


 二人同時に顔を上げる。


「……今の何ですか?」


「風じゃないですか?」


 教師はそう言ったが、由奈はなんとなく気になった。


 夕方の学校というのは、昼間とは別の場所みたいに静かだ。


「ちょっと見てきます」


「あ、お願いします」


 由奈は席を立ち、職員室を出た。


 廊下は薄暗かった。


 窓ガラスに、雨粒が細く流れている。


 誰もいない廊下を歩く。


 音がしたのは、階段付近だったはずだ。


 由奈はゆっくり角を曲がる。


 その瞬間。


 ——カツン。


 上の階から、足音が聞こえた。


「……?」


 由奈は足を止める。


 一段ずつ。


 誰かが階段を上がっていく音。


 カツン。


 カツン。


 静かな校舎へ、妙に響いていた。


「誰かいるの?」


 返事はない。


 足音だけが続く。


 カツン。


 カツン。


 由奈は眉をひそめながら、階段を見上げた。


 薄暗い踊り場。


 その奥。


 一瞬だけ、白いものが揺れた気がした。


 長い髪。


 白い服。


 次の瞬間には、もう消えている。


「……え?」


 思わず階段を上がる。


 二階。


 三階。


 そして四階へ辿り着いた時には、もう誰の姿もなかった。


 静かだった。


 雨音だけが聞こえている。


 気のせい。


 そう思おうとした、その時。


 ——ピコン。


 教室の中から、通知音が聞こえた。


 由奈の肩がびくりと跳ねる。


 恐る恐る教室を覗く。


 誰もいない。


 机と椅子が静かに並んでいるだけだった。


 その時。


 机の上で、スマホの画面が光った。


 由奈はゆっくり近づく。


 画面には、短いメッセージが表示されていた。


 


『どうしてわらったの?』


 


「……なに、これ」


 思わず呟く。


 その時だった。


 冷たい風が、教室の中へ吹き込んだ。


 窓が開いている。


「もう……」


 由奈は小さく息を吐きながら窓へ近づいた。


 雨が床を濡らしていた。


 四階の窓。


 外は暗く、下はほとんど見えない。


 由奈はそのまま窓を閉める。


 ガタン、と窓が音を立てた。


 その瞬間。


 遠くで雷が鳴った。

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