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学校の怪異  作者: qp46
最終章

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十三話 秘密

 学校の空気は、まだ壊れたままだった。


 木下若菜が逮捕されてから数日。


 それでも噂は消えない。


 


『白い女はまだいる』


『木下さん、誰かに操られてたらしい』


『教育実習生の彼氏、やっぱ怪しくね?』


 


 誰かが話し、誰かが広げる。


 真実なんて関係ない。


 面白い方へ。


 怖い方へ。


 噂は勝手に形を変えていく。


 西本拓実は、その空気が嫌だった。


 教室へ入るたび視線を感じる。


 若菜の名前。


 由奈の事故。


 清人の噂。


 全部が混ざり合って、学校全体が妙な熱に浮かされていた。


「……はぁ」


 拓実は小さく息を吐く。


 その時だった。


「拓実くん」


 後ろから声がする。


 振り返ると、さくらが立っていた。


「あ……佐野」


「ちょっと話せる?」


 静かな声だった。


 拓実は少し迷ったあと、小さく頷く。


 


     ◇


 


 人気のない階段踊り場。


 窓の外では、灰色の空が広がっていた。


 さくらはしばらく黙っていたが、やがて小さく口を開く。


「……私、もう分かんなくなっちゃった」


「え?」


「若菜もああなって」


 さくらは俯く。


「由奈先生も死んじゃって」


 弱々しい声だった。


 拓実は言葉に詰まる。


 こんな顔、初めて見た気がした。


「……でも」


 さくらは静かに続ける。


「清人くん、まだ何か隠してると思うんだよね」


 拓実の表情がわずかに止まる。


「隠してるって……」


「だって変じゃない?」


 さくらは窓の外を見つめたまま呟く。


「十年前も事故があって、今回もこうなって」


「……」


「なのに、清人くん何も話さないから」


 拓実は黙り込む。


 確かに。


 清人は何か知っている気がした。


 でも。


「だからって……」


「私、怖いの」


 さくらが小さく言う。


「また誰か死ぬんじゃないかって」


 拓実は何も返せない。


 さくらはゆっくり振り返る。


「だから、本当のこと聞きたいの」


 その目を見た瞬間。


 拓実は胸の奥がざわつくのを感じた。


 


     ◇


 


 その日の帰り道だった。


 拓実はスマホを見つめながら歩いていた。


 画面には、匿名掲示板。


 指が止まる。


 


『榎本ってやっぱ怪しい』


 


 短い文章を打ち込む。


 送信。


 すぐに返信が増えていく。


 


『やっぱそう思う?』


『十年前も怪しいらしいし』


『木下さん庇ってるだけじゃね?』


 


 拓実はスマホを閉じる。


 胸の奥が気持ち悪かった。


「……何やってんだよ俺」


 自分でも分かっていた。


 こんなの最低だ。


 なのに。


 さくらの顔が頭から離れなかった。


 


     ◇


 


 夕暮れだった。


 空は曇っている。


 薄暗い住宅街を、清人とさくらが並んで歩いていた。


 拓実は電柱の影へ身を隠す。


 手が震えていた。


 本当にやるのか。


 頭の中で、何度も声が響く。


 やめろ。


 こんなの間違ってる。


 でも。


 これで全部終わるなら。


 清人が本当のことを話してくれるなら。


 拓実は唇を噛む。


 その時。


 さくらが、ほんの少しだけ振り返った。


 曇った空の下。


 暗くなり始めた住宅街で、目が合う。


 


 ——大丈夫。


 


 そう言われた気がした。


 


 次の瞬間。


 


 拓実は走り出していた。


 


 ガッ。


 


 鈍い音。


 清人の体が前へ崩れる。


「っ……!?」


 振り返ろうとした清人の口元を、拓実は慌てて押さえた。


「悪い……悪いっ……!」


 呼吸が乱れる。


 手が震える。


 こんなの、自分じゃない。


 なのに体だけが勝手に動いていた。


 清人の意識がゆっくり沈んでいく。


 その様子を、さくらは静かに見下ろしていた。


「……拓実くん」


 優しい声だった。


「ありがとう」


 その言葉だけで、拓実の胸が苦しくなる。


 


     ◇


 


 古びた廃屋だった。


 山奥に放置された木造の建物。


 窓ガラスは割れ、湿った木の臭いが漂っている。


 拓実は肩で息をしながら、清人を床へ下ろした。


「……はぁ……っ」


 手が震える。


 汗が止まらない。


 本当に、ここまで来てしまった。


「拓実くん」


 後ろから、さくらの声。


「縄、そこ」


 拓実はゆっくり振り返る。


 薄暗い廃屋の中。


 さくらだけが、不気味なくらい落ち着いて見えた。

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