お仕事見学 「スペースコロニーができるまで」その4
静かな真空の世界。
漆黒の海の彼方に輝く星々。
冷たく、全てを飲み込みそうな世界。
この漆黒の海に果てなんてあるんだろうか。
そんなことを考えながら、ティン・ドアンは窓の外を眺めていた。
ベトナム出身の移民3世の女性である。
端正な顔つきにメガネが理知的な印象をひきたてている。
やがてティンは窓から壁のカレンダーへ目を移した。
この宇宙ステーションへ来てから毎日みんなで交代でカレンダーに印をつけていて、今日はティンの番だった。
マジックで線を引いて気がついたが、前回補給を受けた日からからすでに一月を超えている。
にも関わらず、補給船が来る様子は全くなかった。
「キャプテン、ステーションの食料の備蓄残り二月分しかありません。それまでに補給船が来ないとみんな飢え死にします。」
ティンの報告を受けた男は、なにやら考え込んでいる様子でしきりに顎に蓄えた髭を撫でさすっている。
年の頃は40代後半から50代前半といったところだろうか。
190近い巨躯ほどよく鍛えられた筋肉に覆われていることがは服の上からでもわかる。
US宇宙ステーションのキャプテンであるジョーンズ・ガーナードだ。
彼はタバコは吸わない(本人は吸えないとは絶対に言わないらしい。)くせに何故かいつもタバコをくわえている。
もちろん、火はついていない。
なぜんそんなことをするのかは謎だ。
「キャプテン、ここは禁煙です。」
「火つけてないよ。」
「知ってます」
「なにそれ、やだなぁ。」
「はい、はい」
そんなやりとりをしながら、ジョーンズはティンの側に移動して一緒にカレンダーを確認する。
確かにもうすぐ前回の補給から一月が経過する。
地球の管制へ連絡を入れるが応答はなかった。
最後の通信は別命あるまで現状を維持せよ、だった。
別命がない以上、こうして宇宙ステーションでひたすら日課をこなす以外にやることがない。
いつもの定時連絡にも応答がない以上地球で何かが起こっていることは間違いがなかった。
地球に帰って自分の目で確認できれば良いのだが、大気圏突入可能なシャトルはここにはない。
緊急用の脱出ポッドはあるものの、それを使って戻ってよいものなのか判断がつきかねていた。
命令に背いて勝手に地球に戻れば軍法会議にかけられないともかぎらない。
軍人であるジョーンズにとって命令に背くことはできなかった。
変といえば、最近は他国の宇宙ステーションの軍との小競り合いがさっぱり起きていない。
以前は週に1、2回は互いに攻撃したりされたりを繰り返していたのに、である。
「ほんと、どうしたんでしょうね。」
心配そうにつぶやくティンを慰めようとジョーンズが口を開きかけた時、あわただしく部屋に飛び込んできた男がいた。
小室 玲、自衛隊出身の日本人クルーである。
「キャプテン、通信です!通信室まで来てください!」
「ようやく管制とつながったのか!?」
そうこたえて笑顔になりかけた瞬間、ジョーンズは小室の目が笑っていないのを見てただごとではないことを悟った。
「すぐに行く。」
短くそう答えるとジョーンズはティンに他のみんなをミーティングルームに集めておくよう言い残し、小室と一緒に通信室へ移動した。
「待たせて申し訳ない。こちらのキャプテンを呼んできた。先ほどの話をもう一度お願いできるか?」
と小室がマイクに向かって喋ると、ノイズ混じりで男の声が聞こえた
「こちらロシア連邦宇宙ステーション キャプテンのオレグ・マルキン少佐だ。そちらはジョーンズ・ガーナード米軍少佐であっているか?」
「そうだ。なんの用だ?まさか暇なんでコサックダンスのお誘いですとか言うんじゃないだろうな?」
ロシア連邦の宇宙ステーションはいうまでもなく小惑星群の資源をめぐって争っている国の一つである。
訝しげなジョーンズの声にも緊張が走っている。
仮にも敵対している相手だ、国家の損失になる様な失言はできない。
膠着状況を打開するためにこちらの状況を探る腹なのか?
そんなジョーンズの疑問を先読みしたのか、苦笑しながらオレグは両手を上げて見せた。
「そう怖い顔をするな。そんな平和な話ならよかったんだが、残念ながらそうじゃぁない。極めて危機的な状況についての話だ。」
「危機的?互いに武器を持って争っているのだから、危機的といえばいつものことだろう?」
そう答えるジョーンズにオレグはしばしの沈黙の後、重々しく口を開いた。
「地球で何が起きているか知っているか?」
「なんのことだ?」
「十日ほど前から、こっちの管制と連絡がつかなくなった。」
「なに?」
「最後に管制と話した時に得た情報なんだが、地球の各地で暴動、いや、クーデターか、それがあちこちで起こっているらしい。ウチだけじゃなく、オタクの国を含め宇宙ステーションを構えている国ほぼ全てらしい。」
「まさか、そんなことが・・・。」
言葉を失うジョーンズ。
自分たちが宇宙で次の補給船で届く飯の心配をしている間に、地球でまさかそんな事態が起きているとは思いもしなかったのだから当然の反応といえば当然である。
そしてオレグとひとしきり情報交換をした後、ジョーンズは小室を伴ってミーティングルームへ移動した。
ミーティングルームには当直など手が離せない者以外のほぼ全員が集まっていた。
それまで補給船の予定がようやくついて次の飯はなんだろうとか、シャトルが帰るときに地球の家族に渡してもらう手紙を書かないとなどワイワイ騒がしかったクルー達は、ジョーンズの話を聞いた後、皆一様に無言になり、窓の向こうに見える地球を見つめていた。
妄想ベースなので物理原則やその道の詳しい人たちから見ると、んなわけねーじゃん!ってツッコみたくなる部分がメチャクチャ多いと思います。
楽しけりゃいいってノリなのであまり考証せず書いてますけど、そーじゃなくてこーだ!って指摘は歓迎です。
ストーリーや世界観さえ破綻しなければ、さりげなく取り入れてしれっと書き直してるかもしれませんw




