宇宙でトラブル!
一隻の船が真っ暗な宇宙を進んでいく。
スペースコロニーとスペースコロニーの間を結ぶ航宙船だ。
「こちら、ビクトリアC-3。 管制SCCT-097-75応答願います」
少ししゃがれたおちついた声だ。
航行中の定時連絡である。
週に一度の定期便として他のスペスコロニーとの間で人や貨物を運搬している。
今回の目的地はスペースコロニーSCCT-097-75、通称「ナゴ」。
航宙船はスペースコロニーの様に自転を行わないため、基本的に常時無重力状態である。
そのため船内外に、体を固定するための突起が各所に設けられていてそこに捕まったり手足や固定具をつないだりして体を安定させる。
船内の場合怪我を防止するため厚めのクッションが巻かれているのだが、たまにやんちゃな子供がちぎって遊ぶことがあるため、最近ではちぎれにくい特殊素材に変更されつつある。
「到着予定変更なし、マルフタ、ゴーマル」
「こちら管制SCCT-097-75、了解した。お気をつけて、オーバー」
「やっと到着だな」
しゃがれた声の主はエミリオ。
航宙船パイロット歴30年のベテランだ。
「そうですね。リズちゃんでしたっけ、姪御さん。ナゴにいらっしゃるんですよね」
そう問いかけるチャールズは副パイロットになってまだ1年の若手である。
この時代パイロットが操縦桿を握って操縦するということはごく稀で、発艦、着艦の際に念のため手を添える程度である。
なにせ人間が操縦するには計算するべき項目が多く、少しでも計算をミスすると大変なことになるし、スラスターの制御をコンマ1秒操作誤るだけで明後日の方向へ向かってしまう。
なので計算から機体の制御まで全てコンピューター任せなのが一般的になっている。
しかし、なにもかもコンピューター任せではそれらが使えなくなった時に乗客の命を守れないから、手動でも制御する術を身につける、それがエミリオのやりかたで、乗客を載せていない時にはチャールズに操縦桿を握らせて発艦から航路に載るまでと、着艦間際から着艦までを手動でやらせている。
そのため、船体には少なからずぶつけた跡や、慣れない手作業でパネルを取り替えた跡などもあり、みるからに歴戦の船という雰囲気を醸し出している。
今回は貨物を満載していて乗客はゼロだ。
「さ、チャールズ出番だ」
「はい、エミリオさん」
いつもの試練のスタートだ。
オートパイロットを切ってマニュアルに変更する。
不意にマニュアルに切り替わったことを検知して警告が鳴り始める。
それを黙ってOFFにするエミリオ。
現在の位置を確認し、進路と速度などの諸情報を確認。
マニュアルに切り替えたことによって船は惰性で進んでいるのを手動で調節していく。
「スラスタを吹かせ過ぎるな!
乗客が乗ってたらどうなると思ってるんだ!」
エミリオの叱責と同時に船を大きな振動が襲った。
同時にけたたましく警告音が鳴り始める。
「なにが起きた!?」
慌ててコンソールを操作し、状況を確認するエミリオ。
船内図のちょうど格納庫部分に火災が発生しているというマークが表示されている。
「チャールズ!自動消火装置は!?」
「反応ありません!」
「クソッ!」
コクピットの扉を開けて後部格納庫への通路へ出ると、熱風が顔を叩いてくる。
格納庫の一部の箱から炎が上がり天井まで伸びて燃え広がりつつある。
箱は特に荷崩れした様子はない。
そもそも出発前にチャールズとエミリオ自身で二重にチェックしてある。
となると、箱の中身が先ほどスラスターを吹かした時の衝撃で壊れたか何かして出火に至ったのか?
しかしそれほどの衝撃ではなかったはずだから、問題は箱の中の荷に出火性の薬品か何かが入っていたのだろう。
手動消火レバーを操作しようにも肝心のレバー周りが火に包まれてしまっていて更に煙が蔓延しつつある。
これではどうしようもない。
「チャールズ、コクピットの入り口隔壁を閉鎖しろ!」
指示を出すと同時にエミリオはコンソールを操作して換気制御パネルを呼び出す。
「チャールズ、格納庫の強制排気で空気を排出する。真空状態厳禁な貨物はなかったよな!?」
「はい、エミリオさん!」
チャールズの返事を合図にエミリオが強制換気ボタンを押すと、貨物室の換気口から急速に空気を排気していく。
煙ともに炎も排出されていき、やがて鎮火した。
ほっと一息つくと、エミリオはヘルメットをかぶりライフバックアップを装着するとコクピットと、調圧室を経て貨物室を見て回った。
出荷元の箱を含め、内装がだいぶ焼けてしまったが積み荷の大半は金属製で大きなダメージは受けていない様だ。
しかし、箱が爆発した際に船内設備の幾らかが破損していた。
コクピットに戻ったエミリオは貨物室の状態をチャールズに知らせると、爆発の衝撃でズレた軌道を戻す様指示する。
しかしいくらスラスタを吹かしても反応しない。
このままいくと進路を大幅に外れてしまい、戻れなくなる可能性がある。
ひとまず逆噴射を細かく繰り返して減速し、ズレをちいさくする。
コクピット内の酸素は予備も含めてまだ十分に残っている。
チャールズにロボットを操作させて外部から船体に異常がないかを確認させつつ、エミリオは緊急チャンネルを通じて救難信号を発信した。
宇宙で孤立するということはほぼ例外なく死を意味する。
真空の世界では船内の「限られた空気だけが頼りなので、それが尽きるまでが生存の限界になるのはいうまでもない。
そのため航宙船は各ブロックごとに緊急時に隔壁を下ろしてダメージコントロールを行うと同時に、それぞれに可能な限りのエアーボンベを設置している。
幸い二人の乗るビクトリアC-3がいるのは、スペースコロニー「ナゴ」へ向かう定期航路上である。
さきほど出した緊急信号は、航路上の基点ブイが増幅し、近辺を航行中の他の船や、スペースコロニーへ伝達される。
この仕組みは、危険な宇宙でのトラブルにできるだけ迅速に対応するために全コロニー共通のルールとして設けられたシステムによるものだ。
全てのコロニーはその諸情報、例えば現在位置、軌道、重心偏移、空気や水の品質、気温や水温などの様々な情報をまとめて相互に発信している。
この時、それぞれのコロニーは他のコロニーから送られてきた情報に自分の情報も添えて送信する。
例えば、Aというコロニーで、近くにコロニーB、その更に近くにCというコロニーがあった場合、BはAの信号を受信するとそれに自分の信号を加えて発信するので、A+Bの信号がCに届くことになる。
Cはそれにさらに自分の信号を加えて更に他のコロニーへ発信するという感じである。
実際にはそれらを相互に複数に対して行うので、重複する信号も多々含まれるのだが、それらはタイムスタンプを基準にコロニーごとに情報が整理されて万が一の判断のために運用される。
また、航路上には船が現在位置を確認するための基準として基点ブイと呼ばれるものが設置されている。
これは位置確認のために使用する以外に、緊急信号などを増幅してバケツリレー的に伝達する役目と、非常時の避難場所としての役割も持っている。
その為、基点ブイそのものは数十メートルの大きさがあり、数十人が数日生存できるだけの空気と水や非常食なども備えられている。
中にあるコンソールから通信もできる様になっている。
ビクトリアC-3が発信した緊急信号はこの基点ブイが受信し、増幅して周りの航宙船やスペースコロニーなどへ中継、発信する仕組みになっている。
本来であれば基点ブイに移動して避難するのがベストだが、今回は操船ができないため後はひたすら救助を待つだけとなった。
ちなみに、操船が出来ない船を基点ブイの方から回収する仕組みが配備されるのは、まだ先の話である。
「お客さん乗せてなくてよかったぁ・・・・」と脱力するチャールズ。
やがて、警備官の乗る航宙艦が救助に到着しビクトリアC-3を曳航していき、二人は無事僕らのスペースコロニーに着いたのだという。
数日後、僕たちにその体験談を仰々しく語るエミリオと、目を輝かせてそれに聞き入るリズの姿があった。
妄想ベースなので物理原則やその道の詳しい人たちから見ると、んなわけねーじゃん!ってツッコみたくなる部分がメチャクチャ多いと思います。
楽しけりゃいいってノリなのであまり考証せず書いてますけど、そーじゃなくてこーだ!って指摘は歓迎です。
ストーリーや世界観さえ破綻しなければ、さりげなく取り入れてしれっと書き直してるかもしれませんw




