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 「石崎さんのことを好きなんだろうなあとは思いますけど」

答えを待っていた石崎さんに紅茶を一口飲んでから答えた。

 このお茶もきちんとした紅茶だ。英字表記のある濃い緑色の四角い缶からきちんと計ってガラスの紅茶ポットに入れて、ゆっくりとお湯を注いでいた。こんなおしゃれなおやつを出してもらえるなんて菜月ちゃんが羨ましい。私がそう言うと、いつもは普通のオレンジジュースとかにクッキーとか煎餅とかポテトチップとかで、今日は特別なのだと教えてくれた。

「木本さん呼んだしね。特別。特別って大事だよね。メリハリないと。いつもこんなの出してたら疲れちゃうよ。それに子どもってポテチの方が喜ぶし。それで水本のことを聞いたのは、私のこと関係なく木本さんが水本単体をどう見てるかってこと。外見とかの話。普通に女の子として、見ててかっこいいとは思わないの?」

石崎さんに今日は特別と言われて喜んだが、すぐに話は水本のことに戻された。

「それは…思います。イケメンさんですよね。…モテると思うし」

「実はさ、水本この間、私に普通に『おはようございます』って言ってきたあとに、『ゴールデンウィーク、一緒に遊園地行きませんか?』って言って来たんだけど」

「菜月ちゃんが喜びそうですよね」

石崎さんは顔をしかめてぶんぶんと頭を振った。「菜月は私と二人の方が楽しいに決まってるって!」

石崎さんの強い言い方にたじろいでしまう。「…あ~~、そうですよね。他人がいるより、家族だけの方が気安いですよね」

「あ、でも今度菜月とどこか行くとき、木本さんと休みが合ったら誘うよ」

「ほんとですか!?いいんですか⁉」

立ち上がるくらい勢い込んで言ってしまった。

「うん。今度ね。今日みたいに無理して休み合わさないで、たまたま合って天気とかも良さそうだったら行こうよ」

なんて素敵な約束をしてくれるんだろうと思う。絶対の取り決めの約束はドタキャンになりがちだし、そういうお誘いの少ない私は約束が反故にされるととても凹むと思うから。それでも、「はい!」また勢い込んで返事をすると、石崎さんはにっこりと笑ってくれたが、その後一瞬にして眉間に皺を寄せて嫌なものでも目の前にあるような顔で言った。

「普通に考えて遊園地とか行こうとか言い出して、女の子がいる年上のシングルマザー誘う若い男って気持ち悪いよね?」

 …あ~~、と心の中で唸る。んん~~~…どうだろうな…。

「よくわかんないんですけど…」前置きして私は言った。「…その人次第のような気がします」

水本がそんな風に石崎さんを誘っているところをすぐそばで聞いていたとして、嫌な感じや嫌らしさを私は感じないと思う。私はただ羨ましいと思ってしまうような気がする。

 が、石崎さんがそんな私を残念そうな目で見ていることに気付いた。

「それはやっぱ木本さんが水本のこと見た目でかっこいいと思っているから気持ち悪くないんじゃない?」

「そう…だと思います。不潔な感じがしないからかも」

「いや、そうなのよ」と石崎さんは断言した。「だから余計にね、そんな子がよ?十歳くらい年上バツイチの子持ちと仲良くしたがるってすごく気持ち悪くない?よくあるでしょ?そういう人はだいたい財産狙いかロリコンで娘狙いなのよ」

いやあ…と首をひねりそうになる。そういう詐欺とか性的虐待のニュースも良く聞くけれど、水本は外見の爽やかさもあるからか、私がその見た目の良さに目がくらんでいるのか、汚い下心は見えないのだ。石崎さんを純粋に好きで、菜月ちゃんのことも好きでいようと思っているのが伝わって来る。

 やっぱり外見に騙されてるのかなあ…。


 世の中は不公平だ。やはり見た目がモノを言う。

 石崎さんが言っていた事を考えたら確かにそうだ。水本の容姿だから、あんな風に年上のシングルマザーの石崎さんと娘の菜月ちゃんに近付いて行っても、そこまで気持ち悪くは思えない。

「じゃあ、」と石崎さんが聞く。「見た目だけで判断してみて?水本みたいな子、好き?」

「え?いや…」

「あれ?慌ててる!もしかして好き?私が変な聞き方してるからっていうのもあるけど、見た目に惹かれたとしても全然恥ずかしがらなくていいんだよ」

「いえ…かっこいいと思いますし、石崎さんはキモがってるけど、私から見たら、そこまで怪しくないって言うか…でも、うまく言えないんですけど、石崎さんを好きなことがはっきりしてるので、私が恋愛感情みたいなので好きになることはないと思います」

「え、そうなの?」石崎さんは驚いた顔をした。「私、木本さんと付き合えばいいのにって思ったのに。歳も同じくらいだしさ」

自分は怪しいと思っている人間を勧めて来た。

「歳は同じくらいでも、それは水本さんの好みもありますし、たぶん水本さんて、歳とかそんなの関係なく女の人を好きになるタイプなんじゃないですかね」

「じゃあもし、水本が私に絡もうとして来てなくて、彼女もいないとしたら?やっぱ好きになるでしょ?ああいう感じの子が近くにいたら。いいなあ、と思うでしょ?」

 自分は気持ち悪がってるくせに、石崎さんどういうつもりで私にこんなことを言ってくるのだろう…

 私は出来るだけ言葉を選んで答えたい。実際最初の段階で石崎さんから水本のことを聞いていなかったら好きになっていたと思う。私から好意を積極的にアピールすることはないにしても、好きだという気持ちを持ってしまったと思う。いや持ったに違いない。

「いいなあと思うと思うし、そうなったら好きだとも思うと思うんですけど、とにかく今は実際石崎さんのこと好きなのはっきりわかってますし。私、他に好きな人がいる人は好きにはならないです」

「それは、いいなあと思っても無理して好きじゃないようにしてるってこと?」

すごい聞いてくるなあ…。

「…恥ずかしいんで誰にも言わないでください」私は前置きをする。「菜月ちゃんにも大家さんの奥さんとかにもペロッと話したりしないで欲しいんですけど」

うんうん、と石崎さんは真剣な顔をしてうなずいて見せた。

「本当は言いたくないんですけど…」

まだ迷う私に、「わかったから言わないから早く言って」と若干失礼なせかし方をする石崎さんだ。

「私は…笑わないで聞いてくださいよ?」

「もーー、じれったいな。そういう木本さんも好きだけど言って?早く」

「私は私を好きになってくれる人を好きになりたいんです」

言った瞬間、わーーーと心の中で叫ぶ。恥ずかしい。大して美人でも、何か特別自慢できるようなところがあるわけでもない私が。

 それでも、じっと聞いてくれた石崎さんが、「おおお~~~」とよくわからない感嘆をしてくれた。

「そっか。そうだよね。私もそう!うちの元夫が私のことを好きでいてくれなくなったから離婚したのに、木本さんが恥ずかしいと思ってること無理やり言わしてごめん!」

私はゆっくりと首を振った。「でもほんとに絶対誰にも言っちゃダメですよ。奥さんとの世間話とか菜月ちゃんにも。…こんなこと話すの初めてなんです。私、自分から友達作れないやつで、それでもクラスになにかしら少しは話しかけてくれる優しい人もいて、全く友達いなかったとかでもないんですけど、私から友達って強めに呼べるような間柄じゃないっていうか…親友みたいな子もいないんです」

「私もいないよ。結婚したら友達からだんだん連絡来なくなってきて、子供生まれたらもっと来なくなって。子どもの保育園とか学校のラインの連絡網だって、そこから個別にする人もいるみたいだけど、私はそういうの無理なんだよね。参観日とか行っても、子ども見ないでずっと話をしている人もいるし、帰り一緒に帰ってお茶とかしてる人もいるらしいけど、めんどくさいから私そういうの絶対しないの。一人で行って菜月をじっくり見て一人でさくっと帰って来る」

石崎さんがそういう感じなのは想像できる。

 「じゃあさじゃあさ!」石崎さんはパッと私をからかうような表情に変えて言った。「木本さんを好きだって言って来てくれた人のことが、どうしても木本さん受け付けられないタイプだったらどうするの?」

「それはとりあえずは感謝はして、うまい具合にその人の前からフェイドアウトします」

「へーーーー」


 菜月ちゃんが帰って来た。菜月ちゃんは四年生になった。そして菜月ちゃんの後ろから黒猫のキイもついてきた。「ちょっとちょっと!」、と石崎さんが慌ててキイの足を雑巾で拭きながら言った。

「なんかキイってね、むかしうちで飼ってた犬に似てるんだよね。弟が拾って来たんだけど、いつも私の布団の上に乗って寝てて、いっつもごろごろしてて、老衰で死んじゃったときに、じゃあ次は猫に生まれ変われたらいいねって言ってたのが、今このキイなのかもっていつも思うんだよね」

犬の生まれ変わり?そう言えば大家さんの奥さんは、むかし飼っていた「はな」という猫の生まれ変わりだと言っていた。

 ランドセルを片付け手を洗いテーブルに着いたとたん、菜月ちゃんが「あっ!」と言う。

「お母さん、春花ちゃんに一昨日作ったお茶飲ませてもいいかな」

え?と思う私だが、眉を顰めるのは我慢して、ただ石崎さんの顔をじっと見た。石崎さんが止めてくれることを期待したのだ。



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