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贖罪  作者: 北村 達也
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贖罪87

「20歳から25歳の健康な男に限って1年を限度として契約に盛り込む元の状態に戻すんじゃなくて、

そもそも盛り込めなくしたのは、どうしてでしたっけ? 実質廃止するんじゃなく、

手綱が緩みすぎてたんなら、引き締め直せばいいじゃないですか。」


「天国の意向さ。地上の秩序が乱れて、地獄行きが急増していたから、天国との話し合いの場が設けられた。結果、人間の連れ去りは禁止、という天国側の主張を地獄側が飲む形になって、契約に勝手に盛り込めなくなった。」


「よく天国の意向を地獄がすんなり受け入れましたよね。」


「そもそも、人間に悪影響を及ぼす変更を加える場合は天国との事前の話し合いが必要だったんだよ。

それを蔑ろにして地獄が勝手にやったっていう後ろめたさもあってね、天国に押し切られたんだ。

黙ってやるにしても、当初の設定のままいけば良かったんだろうね。

悪魔と契約するのは人間の罪と考えている天国は人間を助けることに積極的じゃない。

当初の設定なら秩序を大きく乱すことはなく、天国も目くじら立てて文句言ってこなかっただろうけど、

欲が出たんだね。報奨金とかマイナスエネルギーの欲に目がくらんで、やりすぎてしまった。

あんまりにも目立ち過ぎたんで、天国も看過できる状況じゃなくなったんだ。

欲を出すと痛い目に遭う、悪魔界ではいい教訓になったんじゃないかな。

人間から出るマイナスエネルギーを我々悪魔は受けているけど、もしかしたら、

その影響で悪魔にも人間のような欲深さが出てきてしまったのかもね。

これは完全な私見だけどね。」


「でも完全に廃止じゃなくて、契約の取り消しの時にはまだ地獄労働をさせられる余地が残ってるのはどうしてですか?」


「地獄の意地さ。いくら後ろめたいと言っても天国の意向を完全に受け入れるのは癪だった。

だから何とか残せたけど、地獄労働をするような人間がそもそもいないことに加えて、

最低20年という厳しいものになった。

人間の力では決して叶えることのできない願いを叶えるためなら1年や2年で良ければやってみようと思う、地獄の恐ろしさを知らないバカな人間はたくさんいるけど、

最低20年となると二の足を踏むどころの年数じゃない。今の人間の寿命は50年くらいだから、

半分くらいの年数を地獄で過ごすことになる。これはさすがに厳しすぎる。

天国への抵抗として一応は残ってるけど、さっき言ったように実質的には廃止だね。

昔のように、またこっそりやってもいいんだろうけど、地上で堕落が進行し始めてるとは言っても、

それでも十字架の奴の影響で世界にプラスエネルギーが広まった影響で、

まだ地上はプラスエネルギーが優勢を占めている。その結果、天国の力は強まり、相対的に我々の力は弱まる。

そんな訳で、まだまだ力が及ばないから地獄としても出来る限り天国とは揉めたくない。

それに、悪魔と契約する人間が減ったことも事実で、我々としても大胆な方針転換をする必要があった。

ただ、人さらいが横行しすぎたことで神秘の存在である悪魔が現実の脅威となり始めた。

悪魔が関わってない人さらいはおろか、悪いことが起こると何でもかんでも悪魔のせいにされて、

悪魔が愛する悪人たちが、悪魔の足を引っ張りだした。悪人が増えて、

悪事が蔓延ることは喜ばしいことだけど、その背景に悪魔を感じないでもらいたい。

あくまでも我々は想像上の生き物に過ぎない神秘的な存在として認知されたい。

いや、されなくちゃいけない。神秘性は我々に力を与える。

悪魔のイメージの悪化が定着したことで、その後も契約数は伸び悩んだ。

対応に苦慮していた頃、地獄ではおかしなことが起きてた。愛を唱える悪魔の新興集団が生まれた。」


 「新興集団」という言葉にマリスはの体はほんの微かに反応したが、エビールはそれを見逃さなかった。


 エビールは続けた。


「まったく。お偉いさんは何を考えてたんだろうね。

奴らを利用して悪魔のイメージアップを図るという苦肉の策に出た。

奴らは純粋に人助けしようとしてたけど、お偉いさんの狙いは人間の懐柔だった。

ただお偉いさんも大々的にやるつもりはなく、奴らは極めて少数の地獄の異端者たちだから試験的、

局所的に行って様子を見た。上手くいく訳なかったんだ。人間の懐柔なんか馬鹿げてる。

形だけだとしてもゴミと仲良くしようなんて。結局、奴らは人間に裏切られ、

処刑された悪魔狩りが30年前にあった。新興集団の狙いも上層部の狙いもどちらも失敗に終わった。」


 「悪魔狩り」という言葉にもマリスは反応して、今度はさっきよりも大きく体をビクッとさせた。


 エビールは引き続き彼を注視していた。

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