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贖罪  作者: 北村 達也
86/320

贖罪86

しかしこのままじゃまずいということで地獄は行動を起こした。

西暦500年ごろに20歳から25歳の健康な男に限って1年を限度として、

人間の同意なく勝手に地獄労働を契約に盛り込むことが可能にした。

人間を誘惑してどんどん人間を地獄に攫っていったことで状況は改善していった。

そのままにしておけば良かったのに、先祖たちは欲をかいて、調子に乗り出した。

マイナスエネルギーは地獄送りとなった死者が生み出すものより、

新鮮な生者が生み出すものの方が大きいから、地獄労働は重宝された。

西暦800年頃から100年くらいをかけて年齢の上限を徐々に上げていって、

最終的には49歳までとなり、健康でない男でも良いこととした。先祖たちの暴走と言っていい。

地獄での経験がトラウマとなって心を病んだ人間が看過できるレベルを超えて余りにも増えすぎてしまった。

地獄で見たことや聞いたことを他言すれば死ぬと地獄で悪魔たちに教えられてるから奴らは何にも喋らなかった。

書いて教えようとしても同じことだ。しかし奴らの奇妙な沈黙が逆に人間たちを怖がらせて、

悪魔の仕業に違いないと噂して悪魔を強く恐れるようになった。

恐れが強くなりすぎて悪魔と契約する人間がいなくなったら困る。

そこで、地獄労働を契約に勝手に盛り込むことは出来なくして、

契約の取り消しの時だけに人間自身の選択でしかできないように制度が改正された。

ところが地獄労働をしようと思う人間なんか皆無だから、実質的な地獄労働の廃止だった。

大きなマイナスエネルギーを生み出す地獄労働を契約に盛り込むと担当悪魔への報奨金が昔はついたから、皆こぞって盛り込んでいたけど、それができなくなった。契約の取り消しをすると契約がなくなる。

そうなれば成果としてカウントされない。

人間を不幸にするという悪魔本来の目的を思い出せばそれでもいいけど、今は成果主義の時代だ。

せっかく取った契約を捨ててまで人間を不幸にしようと考える悪魔が今の時代少ないことに加えて、

自らの選択でしか地獄労働をさせることが出来ないこの時代に、それが出来たら偉業だよ。

制度が改正されてからまだ誰もそれを成しえていないから、悪魔たるものそれを目指すのも良いだろう。

ただ、言ったように報奨金はもうないし、契約も無くなる。得られるのはただ一つ、名誉だけだ。

しかし悲しいかな。名誉なんてクソというのが今の風潮だ。」

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