贖罪79
「2つ目。彼女は天国で受け入れられないかもしれない。地獄に行くことに同意しているわけだからな。そんな不届き者を天国でまた受け入れると思うか?天国から今回みたいに誰かを連れてくるときに、神の目を盗んでやると言ったな?だが神は恐らく把握しているだろう。じゃあなんで地獄にそのことで文句を言ってこないのか?
言えば自分の管轄下で誰かがさらわれてるなんて失態を認めることになるからさ。地獄に行っておいてノコノコと天国に戻ってきたやつは、天国から弾き飛ばされるのが関の山さ。どこへ行くのかって?天国でも地獄でも狭間でもない、もちろん地上でもない無の世界へ飛ばされるのさ。魂のまま、永遠に無の世界を彷徨い続けるのさ。その魂を取りに行くことはできるが、俺たちは慈善団体じゃないんだ。人間を不幸にするために存在しているんだ。そんなことするわけはない。」
ストローフィーは何も言わず、頭を抱え込んで泣きながら蹲っているが、マリスは容赦することなく畳みかける。
「3つ目だ。頑張って聞いてくれよ? 地獄での労働期間は50年じゃなくてもよかった。20年でもよかったんだ!」
「え……?」
またもや思いがけないことを耳にしたストローフィーは頭をおもむろに上げて、マリスを見た。
「そう、お前が決められたんだよ!6ページ66条3項にはこうある。『契約の取り消しをした場合は、契約者は地獄で労働に従事する必要があり、その期間は契約者が最低20年として自由に決められるものとする。なお、契約者が決めなかった場合は、20年から50年の間で契約担当者が決められ、年数設定は口頭でも良い。』とね。お前がここにいる期間は20年でも良かったんだよ!お前が期間の交渉をしてくれば、俺はそれを認めざるを得なかった。教えなかったって?ああ、教えなかったよ。だが、お前は言われたままを受け取る。だから標的にされる。強い奴は弱い奴に食われるだけだ。お前らの世界もそうだ。法やルールは作ったやつに有利になってるんだよ。悪魔が作ったものなんだから、悪魔の都合のいいように作ってあるに決まってるだろう。だがな、売り込むときは、さも契約者にとって都合が良いものであるかのように言うんだよ。そうやって強者は弱者を蹴落としていく。悪魔は地獄にいるだけじゃない。お前らの世界にも人間の面を被った悪魔がごまんといる!愛だなんだと言っておきながら母さんとそれに…。」
「母さん?」
情報過多に加えて、混乱していたストローフィーはマリスの言っていることを全をて理解できていなかったが、今の彼らの話題には不釣り合いに思える『母さん』という言葉が急に出てきて、その言葉だけストローフィーの耳は拾って、そのままマリスに返した。
興奮して母の話題をつい出してしまったマリスは、はっとしてそれ以上言わなかった。
咳払いをして気持ちを切り替えた。
『いかん、いかん、落ち着け。人間の前で母さんのことを口にするなんて母さんへの冒涜だ。』
マリスは思う。




