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贖罪  作者: 北村 達也
74/320

贖罪74

『神に背いて悪魔と契約したことの罰なのか?こんなところにいるなんて耐えられない!

恐ろしくてたまらない!だけどもし僕が地上に戻ったら…フォスはここにいることになる。

そんなことできるわけない!そうなれば、答えは一つ…。』


 マリスの言う通り、ひとり地上に帰るという選択肢がある中、彼女を戻して自分が残るというもう一つの選択肢を選ぶのは、泉を捨てて大渦に飛び込むような心境だった。


 だが、泉に彼が入ることで彼女が大渦に入ってしまうくらいなら、彼の身に何が起ころうとも彼女を大渦から救い出して自分がそこに入らなくてはいけないと思った。


 それが彼の犯した罪の罰であり、彼女への愛がなせる業であった。


 彼は立ち上がると、彼女を見た。


 彼女は苦しんでいたが、彼女も彼を見た。


 そして彼は笑みを浮かべた。


『笑った?』

マリスは未だかつてこの状況でそんな表情をした人間は見たことがなかった。


「僕はここに残る。」

マリスの方を向いて言った。


 マリスは目を丸くして何も言わずに、ただストローフィーを見つめていた。


 震えだしたかと思うと、先ほどから手に持っていた懐中時計を握りつぶした。


 破片が手に刺さり緑色の血が地面にポタポタと垂れたが傷はすぐに塞がった。


 痛みを感じたマリスは、これは夢ではないと分かった。


「…?聞いてるのか?僕はここに残る。とにかく彼女に魔法をかけてくれ。彼女が苦しんでる。」


 マリスは何も言わずに彼女のところに行き、彼女の体に触った。


 すると彼女は苦しむのを止めて立ち上がり、ストローフィーはそれを見てホッとした。


「あなたをここに残していくなんて出来ないわ。私はこのままでいい、ここに残るわ。あなただけ戻って!」


 彼女がここに残れば彼は地上に戻ることが出来る。


 こんなところにいたくはなかったが、彼のことを思えばそれが良いと思った。


 骸骨になってしまったことは受け入れることはできないが、愛する人に見られなければそれでも構わなかった。


「私がここに残ったらこの人は労働しなくていいのね?」


 マリスは答えなかった。


 先ほどから何か物思いにふけっているようで、心はどこか別のところにあるようだった。


 彼の態度をおかしく思ったストローフィーとフォスはお互いに顔を見合せた。


「聞いてるの?」

フォスが聞いた。


「え?あ、ああ。その通りだ。」


 答えたものの、やはり様子がおかしかった。


 ブツブツと何か呟いていたが、何を言っているか二人には聞き取ることはできなかった。


「それはダメだ。君は天国へ戻り、僕がここに残る。こんなところは君のいるところじゃない。

君には幸せになってほしい。僕がやろうとしたことは僕を幸せにすることだった。

君の死を受け入れなかった僕がいけなかった。大天使の言いつけを守らず悪魔と契約してしまった僕の責任だ。

僕が後始末をつける。」


 彼女の手を自分の手で包み込んで、安心させるように言った。


 愛する人のためなら人は困難に立ち向かっていくことができる。


 先のことを考えると体が震え、頭もおかしくなりそうな彼をなんとかつなぎ止め、自分を犠牲にして地獄に残るという選択ができるのは、彼女に対するとてつもない愛がなせる偉大な行いであった。

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