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贖罪  作者: 北村 達也
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贖罪75

 マリスは目前で起こっていることに面食らっていた。


 彼の考えるところによると、人間は自分勝手な生き物で、己のためなら他人を蹴落としても構わない。


 欲しいものを手に入れるためなら騙しでも、殺しでもするし、それが国家レベルともなれば戦争さえ厭わない野蛮な生き物である。


 こんな人間たちはもとから不幸だ。


 不幸な人間を更に不幸にしたところで面白くない。


 面白いのは人間から愛を奪って不幸にすることだ。


 そうすれば彼がかつて人間にされたことへの復讐になる。


『愛を知る人間は幸せだ。愛する奴らをことごとく不幸にしてやる。

愛で浮かれた人間どもを山のてっぺんから奈落の底へ突き落してやる。』


 彼の過去の経験から、人間を憎む気持ちがあまりにも強すぎて、不幸にしたいという思いが先走って空回りしてしまい結果を出せず、かつては出来の悪い悪魔だったこともあった。

 

 しかしエビールという悪魔からアドバイスを受けてからは、愛し合う男女を主な標的として好成績をあげるようになった。


 女よりも男の方が愛を引きずり易いということを知っていたマリスはよく男に契約をもちかけた。

 

 契約内容は様々だったが、今回のように自分を犠牲にさえすれば相手を助けられるという状況になった男女たちは少なくなかった。


 だが彼らはいつも自分を助けることを優先した。


 恋人や妻では以外の大切な人の命を勝手に差し出して新たな契約をする人間もいたが、マリスが見たかったのはそのような犠牲ではなかった。


 自分はどうなっても構わないから、愛する人を助けたいと思う自己犠牲だった。


 それができるのは真実の愛がある時だけだが、そんなことがあり得るか懐疑的だった。


 実際、彼らは愛しているフリをしているだけで、本当の愛が試される状況になれば決まって化けの皮を剥がした。


 女たちは自分を天国に戻すように要求して、男たちはさんざん悩んだフリをした揚げ句に彼女らを見捨てて地上に戻って行った。


『何が愛してるだ。何が君の為なら何でもできるだ。そんなことを口では言いながら、

いざとなると知らんぷりだ。愛する自由を享受しながら、愛を愚弄するゴミどもめ。

お前らに誰かを愛する価値はない。だから奪ってやる。お前らの愛はお遊びだ。

違うと言うなら自分を犠牲にしてみせろ。十字架の男のように!』


 人間たちがマリスを落胆させ続けるから、マリスも彼らを新たな方法で落胆させようと考えた。


 それが暗闇での男女の対面だった。


 やっと会えたと思って喜んだのも束の間、明かりを点ければ目の前にいるのは骸骨。


 暗闇の中で希望を見て、明かりの中で絶望するとは何とも皮肉なものだった。


 人間が見せる感情の落差は、悪魔のマリスにとっては最高のショーであった。


 だが、それを人間だけに任せておくような失礼な悪魔ではマリスはない。


 人間はぶっつけ本番でショーをやっている。


 それをカバーするのがプロフェッショナルであるマリスの役目だった。


 暗闇に包まれた舞台。二人の人間。


 やがて光があたり、骸骨となった女が現れ、男は衝撃を受ける。


 そして悪魔が登場する。


 一組一組に違うドラマがあり、進行もバラバラであったが、随所で悪魔がカバーする。


 人の神経を逆なでするような悪魔の言い方や笑いはショーには不可欠である。


 契約をさせてしまえばマリスのもので、再契約や契約取り消しになってもならなくても、苦しみが描かれていればそれは芸術であった。


 人間と悪魔が協力しあうことで作り上げるショー、そしてそれを楽しんでくれる灰という観客がいれば全ての舞台は整う。

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