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贖罪  作者: 北村 達也
73/320

贖罪73

「な、何だって? 地獄で働く? 一体どれくらい働くんだ……?」


 マリスは手のひらを広げてストローフィーに見せた。


「5、5年か?」


 ストローフィーが言うと、マリスはゆっくりと首を横に振って、口が裂けるかと思えるくらいの満面の笑みを浮かべた。


「50年……。」


「地獄で、それも……それも50年だって? そんなことできない……できるわけがない!」


「おや?つい今しがた『何でもする』、そう仰いませんでしたか?

契約を勝手に取り消されてはこちらとしても困るんですよ。

それを認めてあげるのですから、あなたにもそれなりのことをしていただかないと。

それとも、あなたの仰る愛とは所詮その程度だったのですか?奥様を戻してあげたいのでしょう?」


 今度は攻め方を変えて、ストローフィーの発言を言質にとって畳みかけるように話した。


 彼自身の口から出た言葉で彼をがんじがらめにしようという試みだ。


 マリスは状況に応じて引いたり押したりして交渉を優位に進めようとしていた。


「勿論だけど。…でも、彼女を戻すにはそれしか方法がないのか?」


「ありません。」


「でも、これから50年生きていられないかもしれないぞ?」


「ご心配なく。死なない体となり、今の若さを維持することができます。」


「どんなことをするんだ?」


「なに、いたって普通の労働ですよ。」


 この地獄で50年を、彼女なしで過ごすことや、働かせられることをストローフィーは想像した。


 考えただけでおかしくなりそうだった。


 彼女を失って絶望し、マリスの誘いに希望を見出しだが、その希望は幻であり再び絶望した。


「さあ。どうするんですか?そろそろ時間ですよ。」

マリスは懐中時計を取り出して時間を見た。


「なんの時間だ?」


 突然フォスが苦しみだして、地面に這いつくばるようにして倒れた。


「フォス?」


 ストローフィーは彼女を起こしていいものか分からずに、あたふたするばかりだった。


「苦しいわ、ストローフィー。」


「彼女に何が起こってるんだ?」


「天国とは正反対の場所であるこの地獄に連れてきたものだから、魂が拒絶反応を示しているんです。

あなたが地獄の熱に耐えられずにいたとき、保護の魔法をかけることで適応できたように、

奥様にもかけてありますが、真っ白な魂にはこの地獄の空気はあまりにも汚すぎるのです。

効き目が切れてきているために苦しんでいるのです。早くどうするか決断しないと奥様はここで朽ち果てます。」


「今かけてくれ!」


「それはできません。あなたは契約を破棄しようとしているのですから。

契約が宙ぶらりんの状態では私にはどうすることもできません。ご理解ください。」


「なんてことだ…。」

 

 彼は腕と手で頭を抱えて、その場にしゃがみこんだ。

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