贖罪68
ストローフィーは、フォスのいる天国とは正反対の地獄にいた。
マリスと地上から移動してきたところだった。
空があったところには岩が広がり、夜だというのに燃え盛る火で広大な岩の内部は明るく照らされていた。
火の熱で温度は異常に高く、汗が滝のように噴き出してきた。
「おや、失礼しました。」
ストローフィーの様子を見たマリスが、地獄に来た時のようにもう一度彼の肩に手を乗せると、地上にいる時のように快適に過ごせるようになった。
叫び声がしてビクッとして、そちらを見てみると、今度は違う方で叫び声があがった。
やがてあちこちで上がった叫び声が岩に跳ね返り、ストローフィーに様々な方向から恐怖を与えた。
「ここが…地獄?」
「左様でございます。私の側から離れないようにしてくださいね。ここの住人は生きている、活きのいい魂に飢えておりますから。」
「ああ。さあ、早く会わせてくれ。フォスに!」
とんでもない所に来てしまったと恐ろしくなり、フォスに会って早く一緒に地上に帰りたかった。
「かしこまりました。」
マリスが何か囁くと彼の前に醜い使い魔が現れた。
身長は130センチメートルほどで全身が青く、耳と鼻が大きくとんがり、目がとても大きく顔の面積の4割ほどを占めていて、口は目とは対照的に小さく、大きな鼻が邪魔をしてよく見えなかった。
天国からフォスを連れてくるようにマリスが命じると、使い魔は頷き、小さな風を巻き起こしてその場から消えた。
「しばしお待ちください。奥様がいらっしゃるまでこの契約書類に目を通して、サインを頂きたいのですが。」
マリスが指を鳴らすと何十ページにもなろうかという書類が現れて、それをストローフィーに渡した。
「なんだこれは。随分たくさんあるな。何が書いてあるんだ?」
字がびっしりと書いてある契約書をパラパラと指でめくったが、こんなものを見ている場合ではなく、彼は一刻も早く彼女に会いたかった。
「なに。大したことは書いてありません。おや、もう着いたようです。」
「本当か!…でもどこに?」
辺りを見回したが彼女は見当たらなかった。
「別の場所です。私がご案内致します。でもサインを頂いてからになります。」
ペンをストローフィーに差し出した。
「あとじゃダメなのか?」
彼女がもう来ていると思うと、いてもたってもいられず、かなり苛立っていた。
「先にサインをお願い致します。」
「ああ、もう!分かった、分かった。」
焦っていたストローフィーは殴り書きでサインをして、マリスに書類を押し付けた。
マリスはサインされた箇所を確認した。
「さあ、これでいいだろ?早く会わせてくれ!」
「確かに。確認致しました」
マリスは深く頭を下げた。
その顔は笑っているようにストローフィーには見えたが、今はそれどころではなかった。




