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贖罪  作者: 北村 達也
67/320

贖罪67

 目の前には公園があった。


 道の左右には青々とした木々が連なっている。


 雲はあまりなくいい天気であり、まさに散歩日和であった。


 三人はフォスの言った通り手を繋いで公園を歩いた。


 フォスは幸せだった。


 ピオニーもジョセフも幸せだった。


 手を繋いで歩くという、こんないつでも簡単に出来ることを地上ではしたことがなかった。


 大きな家に住んでいたからか?ジョセフが家にいなかったからか?


 理由はたくさんあっただろうが、そんなことはもうどうでもよかった。


 出来なかったことを考えるより、出来ることを思う存分に楽しむ方がよほど良い。


「俺なあ、正直言って天国に来たことにビックリしているんだ。

だって、お金のことばっかりでお前たちを蔑ろにしてしまっただろう。

家族だけでなく周りも大切にしてこなかった。

でも死ぬ頃になってやっと大切なものが何かということに気づけたのは良かったよ。

気づくのが遅くなってすまなかったな、ピオニー。」


「もういいんですよ。ねえ、フォス。この人ったら天国に来てからずっと私に謝っているのよ。」


「まあ。パパが!」


 フォスとピオニーは笑いあって、それにつられてジョセフも笑い出した。


「ジョセフ。あなたが戻ってきてくれて嬉しいわ。それだけで十分よ。」

笑い終えてから、ピオニーが優しく言った。


「ああ。すまない。」


「パパったら、また謝ってるわ!」


 三人はまた笑いに包まれた。


「ところでフォス、あなたとっても美しく育ったのね。」


「若い頃のお前にそっくりだろう?」


「ジョセフったら。私はこんなに綺麗じゃなかったわ。」

そうは言ってもピオニーは嬉しそうだった。


「いやいや、お前と瓜二つだよ。俺が言うんだから間違いない。戻ってみてごらん。」


 ジョセフがそう言うとピオニーは若い頃に姿を変えた。


「まあ!」

フォスとピオニーは互いに顔を見て同じことを言った。


 確かに二人はそっくりだった。


「ほら、俺の言った通りじゃないか。」


「ああ、驚いた。」

ピオニーが言う。


「私も、ママ。何だか鏡を見ているみたいで気味が悪いわね。」


 二人は笑いあった。


「さて、似てることが分かったので、戻ってもらえるかな?これじゃどっちがどっちか分からないよ。」


 また笑いが起こってピオニーは元に戻った。三人はよく笑った。


 こんなに笑いあったことはかつてなく、まるでこれまで笑ってこなかった分を取り戻しているかのようであった。


 その後はピオニーの死後にあったことを色々と話して、ラルフやピーターの話題で盛り上がったが、ジョセフもフォスも父の最後の死に方のことを言わなかった。


 それは忘れていたのではなく、あの出来事が恐ろしく衝撃的であり、天国に持ってくる記憶としては相応しくないために、「洗浄の滝」で洗い流されていたのだ。


「俺はストローフィーには会えなくて残念だったな。」


「そうね。会ってもらいたかったけれど。ママ。ストローフィーってとても素敵な人なのよ。」


「知っているわ。」


「どうして?パパから聞いたの?」


「聞いたけれど、そうじゃなくても、あなたが選んだ人なんだから、素敵な人に決まっていますよ。」


「そうなの。彼ったら自分のことより私のことを優先してくれるの。」


「優しい人なのね。早く会ってみたいわ。」


「そうね。彼が来たら紹介するわね。元気にやっているといいけれど、彼。」


 フォスは笑顔で空を見上げて言った。その顔に憂いは全くなかった。


 もし尻尾を蟹に切られていなかったらフォスは彼に会いたくて仕方なかったことだろうが、無くなったことで今はストローフィーにまた会えることを楽しみにしているに過ぎない。


「ねえ、パパ、ママ。私、おじい様とおばあ様たちに会ってみたいわ。」

 

 無邪気に言う彼女は何も知らない。


 彼女の死後に彼がどれほどの苦しみを味わっているか。神を見捨てて悪魔と接触していることも。

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