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贖罪  作者: 北村 達也
54/320

贖罪54

 彼はベッドの上で目を覚ました。


 何かもの凄い悪夢を見ていたようで汗でびっしょりだった。


 手を伸ばしてフォスの腕を掴み、冷たさに驚いて彼は体を起こした。彼は全て思い出した。


 彼が見ていたのは悪夢などではなかった。


 悪夢であれば夢から覚めれば済むことだが、フォスが死んだこと、これは現実であり如何ともしがたかった。

 

 ストローフィーが倒れてしまい、死んでしまったフォスと意識を失った彼をその場に残したまま

帰るわけにもいかず困り果てて椅子に座って彼が起きるのを待っていた医者は、

立ち上がって彼のところに来て、体調を聞いた。


 彼は考えることもせず頷くと、医者は今後の彼女の死体の処理についての説明を始めた。


 彼はそれを黙って聞いていたが、頭には入っていなかった。


 彼はただフォスの赤みが引いて白くなった顔を見ていた。


 彼女は朝までは笑って彼と話していたのに、もう何も言わなくなってしまった。


 もう一度何か喋ってくれないか、もう一度笑ってくれないか、そう思って見ていたのだが、いくら見ても彼女の表情は変わることは無かった。


『本当に、逝ってしまったのか。』


 医者の言葉ではなく彼自信で彼女の死を言葉にすると、悲しみの波が一気に彼のもとに押し寄せて彼を飲みつくした。


 彼は医者が話しているのにも構わずフォスの体に突っ伏して泣き出した。


 太陽が落ちた今、もう月が輝く余地はなかった。


 後日、彼女の遺体が埋葬され、彼女の死を悲しむたくさんの人が集まって彼女に別れを告げた。


 おしゃべりが好きなフォスの同僚アゼリアはストローフィーのそばに来た。


 この時ばかりはさすがの彼女もおしゃべりを封印して、彼を抱きしめて慰めの言葉をかけた。


 彼は彼女の死後、周りで起こっていることに意識が向かず、何が起こっているのかよく分かっていなかった。


 アゼリアが話しかけると、頷いてはみせるものの何も耳に入っていなかった。

 

 葬儀を済ませて彼が家に戻ると、窓際に彼女が世話をしていた花があった。


 水も変えてなく日にちも経っていたことで枯れていた。


 彼はその花をひっつかんで、投げつけた。


「どうしてそんなに早く死んでしまうんだ!なぜずっと咲いていてくれない?」


 花は何も言わずに黙って彼のことを見ていた。

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