贖罪53
幸せの始まりは、終わりの始まり。いつかは終わりが来る。
ある時点の誰かを永遠のものにしたくて描かれる肖像画のように、人はとかく時を保存したがる。
一方向にのみ流れる時を、むやみやたらに切り取る行為は時への冒涜である。人間の造る永遠は存在しない。
手のひらに乗せて掴むことができる氷はやがて溶けていき、液体となった水はもう掴むことができずに、手から溢れていく。
それが自然の姿だ。人はそれを終わりと考えるが、神はそこで終わらせない。
水は蒸発して、雲となり、恵みの雨を降らせる。このサイクルが永遠に繰り返される。
始まりとは終わりであり、終わりとは始まりである。永遠の設計者は神であり、人間では決してない。
永遠を欲するということは、水を掴もうとするようなものだ。
始めたことは終わらせる必要があり、どこを終わりとするのかは神が決める。
終わりを奪う、つまり永遠を求めるということは、神の采配への介在だ。
それでも溶けることのない氷が欲しいというなら、借りてはいけない力を借りる必要があろう…。
ストローフィーとフォス、彼らの幸せは続かなかった。
花畑での会話から半年後、フォスが朝の食事の支度をしていると突然食器の割れる音がして、ストローフィーが見に行くと彼女が倒れていた。
すぐに医者に診てもらったが、いくら診察しても医者は厳しい表情をするだけで何も言わなかったので、しびれを切らしたストローフィーが先に聞いた。
「先生、どうなんですか?」
「原因が…分かりません。」
「分からない?」
「ええ、診察しても異常なところは見当たりません。」
「しかし、この通りひどく苦しんでいるじゃありませんか!」
「ええ、そうなんです。だから分からないんです。体に異常はないんですが。」
「妻は助かるんですか?」
医者が答えを言う前にフォスが何か言うのが聞こえて、ストローフィーは彼女の口に耳を近づけた。
「なに、フォス?」
「分かってたの。」
彼女は一言を発するのに、まるで命を消費しているように苦しそうに言った。
「分かってた?何が?」
彼女はそれには答えず、違うことを言った。
「ずっと…咲いていたかった…。」
そう言うと彼女は何も喋らなくなった。
「フォス?」
彼は何度も彼女の名前を呼んだが、何も返事がない。
してはいけないことだったと思うが、彼女の体を何度もゆすった。しかし、何も変わることはなかった。
彼女はもう死んでいた。それでも彼は諦めなかった。
フォスはただ眠っているだけで、何度も名前を呼びさえすれば彼女は目を覚ますに違いないと彼は思い、また彼女の名前を呼んだ。
「フォス、起きて。」
まるで寝ている子供を起こすような言い方だった。
「ストローフィーさん。」
医者が彼の後ろから話しかけ、彼は振り向いた。
「奥さんは、もう亡くなっているようです。」
「亡く…?」
医者は彼の横に立ち、彼女の腕を取って脈を測り、その死を確認した。
「残念です。」
「残念…?」
「ストローフィーさん、奥さんは亡くなられました。」
「そんなバカな!だって朝まで元気だったんですよ?」
医者は彼にかける言葉が見つからずただ黙っていた。
ストローフィーは彼女の死というあまりの衝撃、あまりの突然さのことに眩暈がして意識を失い、その場に倒れた。




