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贖罪  作者: 北村 達也
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贖罪37

 しかし彼が靴を大切にするのには、物への感謝以外の気持ちもあって、彼の幼少期が関係していた。


 母は彼を産んで間もなく亡くなった。


 父は子供を望んでいなかったから、生まれてきてしまった彼を可愛がることはしなかった。


 彼が5歳になる頃に父は再婚をしたが、彼女は彼がいることが嫌だった。


 せっかく好きな人と一緒になることができても、前の女性との間に出来た子供を毎日見なくてはいけないのは彼女にとって苦痛でしかなかった。


 こうして彼は家の中で父からも義理の母からも必要とされず、愛されず、寂しい時間を過ごして大きくなっていった。


 愛されたことのなかった彼は、愛し方が分からなかった。


 父は自分の見てくれに気を遣わなかったが、靴を綺麗にすることだけには気を配っていて、道具を持っていた。


 あるとき父が靴を磨いているのを興味深そうに見ていたストローフィー少年に父は気づいた。


「お前もやってみるか?」


 ストローフィーは頷いた。すると父は彼の靴を取って彼に渡して、道具の使い方を教えてくれた。


 父に言われた通りに靴を磨いていくと、一度も磨いたことのなかった彼の靴は見違えるほど綺麗になった。


 父は彼に教えたあとにその場から離れていたので、彼は父のところに行って磨き終わった靴を見せてみると、

父はそれを手に取り色々な角度から眺めたあと、頷いてから彼の頭をポンポンと叩いた。


 それは父との初めての親子らしい交流だった。


 彼はそれが嬉しくて、出かけてなくて汚れていない翌日にまた磨いて父に見せに行ったが、父は関心を示さなかった。


 昨日の今日なのだから、父の反応は当然のことだったが、彼はがっかりした。


 その後も時々見せに行ってみたが、やはり初めてのような反応を得られることはできなかった。


 貧乏な家だったし、彼を可愛がっていなかったのだからおもちゃを買ってくれることもなかった彼にとって家の中での唯一の遊びといえば靴を磨くことしかなかった。


 彼は毎日外から帰ってくるとブラシを靴にかけてあげるようになった。


 靴には外でついたホコリがついているからブラシをきちんとかけてあげることで綺麗に保つことができた。


 そして定期的に靴にクリームを塗ってあげた。


 人の肌が水分と油分を必要としているように、靴もそれらを必要としている。


 父に褒められたくて始めた靴磨きは、やがて彼の心を癒すものとなっていった。


 父にも義理の母にも相手にしてもらえない孤独な時間を埋めてくれるのは靴だった。


 結局、彼が家を出る時まで父がまた褒めてくれることはなかったが、

彼が靴を修理したり磨いて綺麗にしたりすることで、お客さんに喜んでもらいたい、そう思って今の仕事に就いた。


「いつも頑張ってるのに、誰もお前たちのことを分かってくれなくて可哀想に。でも僕の店に来たからにはちゃんと綺麗にしてやるからな。」


 そう言って磨き終わった靴を置いて、これから修理したり磨いたりする靴たちを見て言っていると、人が入ってきた。


 店は閉まっているのに気づかずに入ってきてしまう人はこれまでもいたから、

誰が見ても閉店していることが分かるようにしておかなければいけないと彼が思っていたので、

『またか』と、作業するために取り上げた靴の状態を見ながら、入ってきた人を見もせずに言った。


「ごめんなさい、もう閉店していますので、また明日来てくれますか?」


「いいえ、待てないわ。」

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