贖罪35
「ええ、ごめんなさいね。次からは気を付けるわ。」
「それじゃあ失礼します。アゼリア、フォス。」
彼が扉を開けて出て行くと、アゼリアが話した。
「あの人は変わった人だけど、最近は何だか人が変わったように楽しそうにしてるんだよ。」
彼らの関係を不審がっている様子は彼女からは感じられなかった。
どうやら上手く誤魔化せたようだ。
「そうなの?それはいつくらいから?」
「みんなの話だとここ10日くらいのことらしいよ。」
ここ10日といえば彼女と出会ったくらいだった。
それを聞いたフォスの顔は明るくなった。
「おや、なんだか嬉しそうな顔をしてるね?」
「ううん、何でもないの!それよりお見舞いに来てくれてありがとうアゼリア。」
それから彼女はアゼリアに促されてベッドに入った。
アゼリアは近くの椅子に座って、ストローフィーの靴屋でのように噂話をしたが、
ストローフィーがそうだったように彼女も上の空で、頭にあるのはストローフィーのことだけだった。
彼に抱き寄せられた感覚が今でも体に残っていた。
彼女の華奢な体をしっかりと支えてくれた彼の逞しさと優しさに胸が締め付けられた。
倒れかけた彼女を彼が支えたということは、これからも彼女が倒れそうなときには、
いつも彼が側で支えてくれることを意味しているように彼女は感じた。
額がくっつくほど近い距離にいたことを思い出すとまた顔が熱くなってくるようだった。
口づけをすることなく終わってしまったことが歯がゆいが、
ただでさえ熱があるところに、思い出すだけで顔が火照ってしまうのだから、
その上に口づけまで交わしてしまったら彼女はどうなってしまうか分からなかった。
それに今の彼女はネグリジェを着ていて髪も梳かしていないし、化粧もしていなかった。
彼女が一番美しい状態の時を彼には見て欲しかった。儚くも美しく花のように。
だから口づけはその時までお預けにしておくのも、また一興だと彼女は思った。
それに、アゼリアさんからいい話も聞けた。
『彼が楽しそうにしているのは、私と出会った頃あたりから。』
そんなことを考えながら、アゼリアが剥いてくれたリンゴを嬉しそうに食べていた。
アゼリアは彼女のそんな様子を見て、自分の話が面白いと勘違いして、
滞在時間を伸ばして噂話の引き出しを存分に披露して帰って行った。




