贖罪32
彼女は驚きを隠せなかった。だが彼女の胸の高鳴りは彼には知る由もなかった。
彼女のために彼は走って、店を閉めてここまで来た。
彼がしたことは、母が病気で臥せっているときにジョセフが取った行動とはあまりにかけ離れていた。
誰も彼女のことを気にかけてくれず、母のような運命を自分も辿るかもしれないという
悪い想像をしていたところ、目の前に現れたストローフィーは光り輝く存在であった。
ついに太陽は月を見た。
彼を光り輝かせたのは他でもない彼女であったのに、この無邪気な太陽は月に何をしたか全くわかっていなかった。
弱気になった太陽が落ちて闇に包まれた時、闇夜に浮かぶのはストローフィーという月だけだった。
惑星のように宇宙を彷徨っていた太陽は今ここに恒星として腰を据えて月だけを見つめた。
彼女の目に映る彼は何という美しい輝きだっただろう。彼女はストローフィーに恋をした。
体がフラフラしたことで彼女は自分の体調が悪いことを思い出した。
「ごめんなさいね。汚いところで悪いけれど、よかったら上がっていって。」
そう言ってドアを内側で開いたままにして彼に入るように促した。
「でも、悪いな。」
「いいの、せっかく来てくれたのにこのまま返したら悪いもの。」
「うーん、それじゃ、ちょっとだけ。」
彼女の家に足を踏み入れた。こざっぱりとした部屋だった。
必要なものしか置かないようで装飾品などはなかったが、窓際には花瓶に入った花だけ飾ってあった。
その花は彼女が昨日摘んできた花だった。
「せっかくのお客さんだと言うのに悪いけれど、横にならせてもらっていいかしら?」
確かに立っているのも辛そうな状態であった。
「うん。ごめんね、こんな時に押しかけちゃって。」
「そんなことないわ。すごく嬉しい。さあ、そこに座って。」
椅子に座ると、その後は沈黙が流れた。
何を話したらいいかと相変わらず悩む彼と、好きになった相手がすぐそばにいることで緊張して話せなくなった彼女がそこにはいた。
ふとした瞬間にお互いの目が合うと、ぶつかり合った視線はすぐに弾け飛んだ。
彼女の様子がいつもと違うことを彼は不思議がったが、きっと熱のせいだろうと思った。
確かに彼女の体温は普段よりも高くなって彼女の体調を悪くしていたが、行動がいつもと違うのは彼に熱を上げていることが理由だった。




