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贖罪  作者: 北村 達也
14/320

贖罪14

「お嬢さま、起きてください。」


 そう呼ぶ声で彼女は目が覚めた。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。


 布団から出ると外はもう暗くなっていた。ベッドの脇には使用人の女性が立っていた。


 時計を見ると17時59分を指していて、やがて1階の広間にあるジョセフお気に入りの高価なホールクロックが18時を知らせた。


 彼女にとって、それはまるで何かの始まりを告げるようだった。


 良いことなのか悪いことなのかは分からないが、良いことであって欲しいと彼女は思った。


「お嬢さま、お母さまがお呼びです。」


 使用人は震える声で言った。


 悪いことのようだとフォスは思った。


 ベッドから降りて母の部屋へ向かった部屋の外には医者が立っていて、フォスがそばへ行くと医者は膝を折って目線を彼女に合わせて話した。


「お母さまが呼んでいるよ。今は落ち着いているから、言っておあげ。」


 そう言って彼女の肩に手を優しく乗っけた。


 こくりと頷いて彼女は部屋に入り、後ろから医者も入ってきた。中には看護師もいた。


 フォスはピオニーのいるベッドまで歩いて行って母の顔を見ると、血の気が引いて顔面蒼白であった。


 フォスは恐ろしくなってこの場から立ち去ってしまいたい衝動に駆られた。


 だが母が彼女を必要としているのだからそれはできなかった。力を振り絞って母に呼びかけた。


「ママ?」


 ピオニーはゆっくりと目を開け、どこか遠くを見ているようだった。


 やがてフォスに目を向け、辛そうに声を出した。


「待っていたわ。私の愛する子。私の光。私のかわいいフォス。」


 そう言って震える左手をフォスの頬に当てた。


 フォスはその腕を両手で支えた。彼女の腕も震えていた。


「怖がらなくて大丈夫。ああ、明るくて目を開けていられないわ。明かりを消してくれないかしら?」


 ピオニーは右手を両目の上に当てて光を遮った。


 医者は看護師に頷くと、看護師は言われた通り明かりを消して、部屋の中は暗くなった。


「ああ、これでいいわ。」


 ピオニーは両目に当てていた右腕をどけて言った。


 それから彼女は激しく咳き込んだので、医者が駆け寄ったが母はそれを拒絶した。


「いいの、大丈夫だから。時間がないから。」


 しばらくゼーゼーと苦しそうに呼吸をして、少し落ち着くとまた話を始めた。


「今日は月が見えるかしら?」


 ピオニーは言った。


「月?」


 今この場に全く関係ないようなことを母が突然言ったので、フォスは思わず聞き返した。


「そう、月よ。カーテンを開けてくれない?」


 フォスは言われた通り窓際に行って、閉まっていたカーテンを開けた。


 空には雲が多くあったが、今は綺麗な月が輝いていた。


「あるわ、ママ。そこから見える?」


「ええ、見えるわ。ありがとう。とても美しいわね。」


「そうね。」

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