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贖罪  作者: 北村 達也
13/320

贖罪13

「フォス?」


 弱々しい声であった。


「うん。」


「おいで。」


 そう言われてフォスは小走りでベッドまで行き、ベッドの端によじ登った。


「昨日は楽しかったわね。」


 フォスの頭をポンポンと叩いてピオニーは言った。


「うん、とっても楽しかった。でも…」


 フォスは泣きたくなる気持ちをぐっと抑えた。


「雨にはびっくりしちゃったわね。」


「うん。」


「あなたは風邪引いていない?」


「大丈夫よ。」


「そう、よかったわ。寒い思いさせてごめんね。」


「いいの。ママは大丈夫?」


「大丈夫よ。あなたの顔を見たら元気になってきたわ。」


「本当?」


「ええ。」


「また行こうね、お花畑?」


「…ええ。そうね。」


 ピオニーはすぐには答えなかった。


 母の返事に何かを感じ取ったフォスはそれ以上聞かなかった。


 長居をしては母に悪いと思いフォスはおやすみのキスを母の頬にして部屋を出た。


 自分の部屋に行く前に父の部屋をノックしてみたが、返事はなかった。


 いないことが普通だから、いなかったことで驚きはしなかった。


 自分の部屋に向かいながら父が明け暮れている仕事というものは一体何なのだろうと彼女は考えた。


 前に父がいるときに硬貨のお金を見せてもらったことがあったが、何の変哲もないものに見え、大人がそれを欲しがる理由が分からなかったから、父に聞いてみた。


「パパはこれが欲しいの?」


「それは何かと交換するためにあるものだよ。この家だってそれをたくさん集めて交換したんだ。」


 そう言って父は誇らしげに部屋を見回しながら言った。


 どうしてお金をかけてこんなに家を大きくするのか彼女には不思議だった。


 家が大きいと家族の距離は遠くなるから、もっと小さければ皆が一緒の部屋にいられるのに、そう思った。


 母の部屋にいる時に父が出かける音が聞こえて、母は寂しそうな顔をするのをよくフォスは見た。


『お金とママの幸せな顔は交換できないのかしら?出来ないのなら、どうしてそんなものを集める必要があるのかしら?』幼い彼女に答えは出なかった。


 溜息をついてパジャマを着てベッドに入り、ベッドサイドのランプを消して、『ママの体が良くなりますように。』そう願って眠りについた。


 風邪ならきっと良くなるとフォスは思っていたが、ピオニーは次の日には手足が冷たくなり、体のだるさに襲われた。


 悪性の不整脈が現れ、呼吸困難や、胸の痛みも訴えて体調が急激に悪くなり、危険な状態で今夜が峠だと考えられたため、医者は看護師を家に呼んで、泊まってピオニーを見ることになった。


 家の中は騒がしくなり、フォスは自分の部屋の扉を開けて外を見てみたが、怖くなって直ぐに閉めた。


 彼女はベッドに走って行きクマの人形を手に取り、布団をかぶった。


 クマの人形を抱きしめて母の無事を祈った。祈ればきっと良くなる、そう信じた。


『神様、ママをどうか助けてください!』


 彼女は心の中で何度もそう唱えた。

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