贖罪11
馬車が花畑の側に着くとフォスは勢いよく飛び出して駆けて行った。
後から出たピオニーは肌寒さを感じて少し震えて咳き込み、羽織っていたストールを少し引き寄せ身を縮ませた。
もしフォスがそれを見ていたら、やはり母は良くなっていないと思い、心配して帰ろうと言ったに違いないが、無邪気に浮かれて走っていた彼女はそれに気づくことができなかった。
親子は花と戯れた後に花畑から離れて野原にいき、フォスはそこを嬉しそうに駆けまわって遊んだ。
そんな娘の姿をピオニーは座って見ているのが幸せだったが、これが最後かもしれないと思うと彼女の目から涙がこぼれてきた。
フォスは今度は見逃さずに、母が泣いているのを心配して駆け寄ってきた。
風で目にゴミが入っただけと安心させて、二人は木陰へ移動して、途中で買ってきていたサンドイッチを食べた。
お腹が満たされて、動き回って疲れていたフォスは母の膝を枕に眠ってしまった。
ピオニーは先ほど花畑で取ってきた花を一輪手に取り、花びらを一枚一枚ちぎっていった。
一枚ちぎるごとに「生きる」と「死ぬ」を交代に頭の中で唱えて言った。
最後の一枚になったあと、彼女は震える手で花を置いた。
目から涙が流れて頬を伝い、顎から放たれて彼女の膝で寝ていたフォスのおでこへ落ちた。
フォスがそれで目を覚まして母に何があったのかに気づく前に、先ほどまで晴れていたのが嘘のように突然の土砂降りとなり、フォスの顔に無数の雨粒が当たり母の涙はどこかへ行ってしまった。
二人は慌てて馬車に走って戻り、御者も途中まで来てくれて傘を差してくれたが、母は相当雨に打たれ、また、床に臥せっていてほとんど動かしていなかった体を急に動かしたものだから、馬車に戻ると苦しくなり咳が止まらず、寒くて体は震えだした。
フォスが心配して慌てふためき泣き出してしまったので、母は大丈夫と伝えて、震えでガタガタする口をなんとか笑顔を作り、お互い濡れてしまっていたが、彼女を左腕で抱き寄せて、彼女を安心させようとした。
フォスはピオニーの腕が震えていることでもっと泣きたい気持ちになったが、自分が泣けば母は安心できない、そう思って泣くのを堪えた。
それを見たピオニーは娘の考えとは違う意味で安心した。
『この子は賢い子だ、私がいなくてもちゃんとやっていける』
手のかかる子供では親は安心できないが、聡明なフォスの母を思う行動は、母がこの世に残らなくてはならない理由を奪うことになってしまった。
ピオニーは御者に急いでもらうように伝えて30分の道のりを20分で帰ることができた。
馬車が目指しているのは彼らの家であったが、ピオニーは家の先にある彼女が行くことになる場所を見ていた。




