贖罪10
ピオニーにとって自分の心を暖かくしてくれる唯一の存在は娘であり、彼女は産まれてからずっとピオニーにとっての光であった。
体調の悪い時は愛する娘のことを考えてなんとか病気を退けようとし、体調が良い時になれば娘と外出するのを楽しんでいたのはフォスだけではなく母にとっても同じ、いや母の方が楽しみにしていた。
歳を重ねるごとに年間を通して不調の期間が長くなっていった彼女は、娘といるときは空元気を出してみても、一人になると自分はもう長くはないと年々弱気になっていった。
あればあるほど、その大切が分からなくなり、貪るようになるのが人の常というもので、残りが少ないと分かった時に初めてその大切さに気が付く。
娘と過ごせる時間が自分にはもうそう残されていない、そう思うと娘と過ごす一瞬一瞬が宝物のように思えた。
フォスが7歳になってからのピオニーは体調が優れずに、外出はおろか、家でも床に伏しがちであった。
母に負担をかけないように注意しながら、フォスはよく母の部屋に行って本を読んであげた。
どこにも行けなかったピオニーにとってその時間はとても楽しいものであったし、気遣ってくれることに嬉しさを覚えるとともに、こんな年端もいかない子に心配をさせている自分の病弱さを呪った。
フォスが8歳を迎えたある秋の日のピオニーの体調はすこぶる良かったので、娘を連れていつものお花畑に行った。
定期的に来ていた医者はその日も来ていて、止めた方がいいと言われたが、彼女は昔から自分の決めたことには頑固な性格をしていて、それを知っていたジョセフも、止めても無駄だと分かっていたので心配で堪らなかったが行かせるしかなかった。
フォスももちろん心配していたが、この一年は母と外出していなかったため、母に無理をさせないようにと自分に言い聞かせつつ、久しぶりに一緒に外で過ごせる時間が来たことを喜んだ。
彼女が今回の外出を押し切ったのは単に彼女が頑固だからというだけではなかった。
本当に体調が良かったし、年々弱ってきている自分の状態を考えると、これがフォスと一緒に外出できる最後の機会かもしれない、そう思っていたのだ。
そんなことを母が考えているとは露知らないフォスは移動中の馬車の中で彼女に甘えた。
母はこの1年ですっかり痩せてしまい色も青白くなっていたものの、自分で言う通りすごく元気そうだったので、母を気遣っていつもは自分を抑えていたが、甘えても大丈夫だと彼女は思った。
母が今回を最後の機会と考えていたのとは対照的に、フォスはこれから母が良くなる契機だと考えた。




