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コレットに会った次の日、授業を終えて寮の部屋に帰ると、クレイのベッドの上に色とりどりの布と糸が置かれていた。
キキがそれを邪魔そうに見ていた。
「え!?なにこれ!?」
クレイは部屋のなかを見回す。
ベッドの下まで見たが、誰もいない。
クレイは机の引き出しを開けて、妖精金貨を含む貴重品を確認した。盗まれたものはなかった。
ほっと一安心するも、不快な気分は消えない。
人の部屋に勝手に入って、こんなものを置いていくなんて、誰の仕業だろう?
「あれ?でも、寮にはエーテ先生の魔法がかかってるって、師匠が言ってたよな」
寮には基本、寮を利用している学生と寮母であるエーテ先生しか入れないことになっている。エーテ先生の魔法で、寮生以外の侵入を防いでいるのだ。マーリークサークルの教師であれど、例外ではない。寮に入るにはエーテ先生の許可がいる。
こんなに大量の布やら糸やらを他の学生がクレイの部屋に持ち込む理由がわからない。こんなものをクレイの部屋に運んでいたら、誰かが気づく。一番にエーテ先生が気づく。
エーテ先生にはさっき会ったが、いつも通りの先生だった。なにかを隠して驚かそうとしているとも考えにくい。
となると・・・
クレイはベッドに何とかして居場所を作ろうとしているキキを見る。青色の布を後ろ足で蹴りやるが、その上から茶色の布が滑り落ちてくる。
寮生でもないのに、勝手に出入りできる存在が実はいる。
森に住む小さな生き物や、キキのような魔力の強い魔物だ。エーテ先生の魔法をやすやす通り抜けて、こうして勝手に出入りすることができる。
「この布、お前か?」
クレイがキキに聞くと、キキは「そんなわけあるか」と言う目でクレイを見てきた。
「そうだよな・・・それじゃあ、誰だろう?」
首をかしげると、ベッドの足の付近でなにかが動いた気がした。虫かな?と思っていると、キキが動いた。
素早い身のこなしでベッドから飛び降りると、なにかに飛びかかった。
「きゃー!!」
「いやー!食べないでー!」
女の子の声が聞こえた。
クレイは大慌てでキキのお尻をつかんで、ベッドの下から引きずり出す。
キキは二人の妖精を口にくわえていた。
「ジェナのことは喋るなって言っただろう!」
「ごめんなさーい!!」
クレイの部屋で妖精のコレットに説教しているのは、メーラだ。部屋にはクレイとジャム、それに、キキに噛みつかれた二人の妖精ペッティとニーニャがいる。
溢れる布と糸を前に、メーラは怒りの声をあげる。
「妖精が噂好きって聞いてたけど、ここまでとは思わなかった。どうして、クレイが裁縫師になるなんて話しになってるんだよ!」
「私にだってわからないわよ!いつの間にかそういう話しになってたんだもん!私は、もしかしたら人間の国から新しい裁縫師さんが来てくれるかもしれないわよって、友達に言っただけだもん!」
コレットが半泣きで言い返す。
どうやらコレットの話に尾ひれがついて変遷し、マーリークサークルにいる人間であるクレイが裁縫師候補ということになったらしい。それを聞いた妖精の数人が、さっそくドレスを作って欲しいと、布と糸を大量に運び込んだという訳だった。
二人の妖精ペッティとニーニャは、ちょうどクレイの帰宅に居合わせてしまい、キキに捕らえられたという顛末だ。
クレイは噛みつかれて泣き出してしまった二人から事情を聞き、どうしたらいいかと困ってしまってメーラとジャムを呼んだ。メーラが怒ってコレットを呼び出し(絶対に近くにいるからとコレットの名前を呼んだら、本当に出てきた)今に至る。
「私もね、頑張ったのよ。クレイの事を裁縫師だって勘違いしてる子がいるって気づいて、慌ててそうじゃないって言って回ったんだから!でも、もう遅くて・・・」
「みんな、新しい服を作って貰えるってすっごく喜んでるの」
「女王さままで大喜びしちゃってて、たくさん布を集めてるって話よ」
ペッティとニーニャの言葉に、クレイはますます困ってしまう。
「そんなこと言われても、俺、ドレスなんか作れないよ」
「作らなくて良い!この布も糸も持って帰れ!これじゃあクレイが寝られないじゃないか!」
メーラがコレットたちの目の前に魔法の杖をかざしながら、脅すように言った。
コレットたちは怯えたように「わかってる、ちゃんと持って帰るから」と頷く。
「それから、クレイが裁縫師じゃないってちゃんと伝えろ」
「大丈夫!それはもう、女王さまに言ってあるから、すぐに皆に伝わるわ。安心して」
コレットの言葉で、ようやくメーラの怒りが落ち着いた。
「女王さまの言葉は絶対だから、みんな従うわ。裁縫師は人間の国にいて、今、交渉中だからって。その答えはケビンが持って帰ってくるから待ってなさいって!」
「ケビン?」
「そうよ、あなたたちお願いしてくれたのよね?」
「え、それは・・・まだ・・・」
今度はコレットたちが怒りだした。




