33
新学期がやってきた。
パッパース村に別れを告げ、マーリークサークルへと向かう。
箒で空を飛ぶ旅も、もう、慣れたものだ。
今回、ケビンも同行しているが、ケビンはマーリークサークルに戻るのではなく、魔界の街へ行き、ケビンと同じ魔眼保持者に会いに行く事になっている。クレイとメーラを送り届けてから、タロルと共に向かうそうだ。
「なあ、ちゃんと先生しに戻ってくるよな?」
メーラは何度もケビンに、そう確認している。
ケビンは今朝、クレイとメーラにしばらく教師を休職して、魔眼について調べてくると言った。
ステアたちは既に知っていたようで、なにも驚いていなかったが、メーラとクレイは驚いた。
「なんで!?お前先生だろう!?ちゃんと授業やれよ!」
メーラはケビンがマーリークサークルに戻らないことにショックを受けたようだ。
クレイは逆に、退職するのではなく、休職するということに驚いた。ケビンはパッパース村で暮らすと思っていたからだ。
「どうして?俺はもう大丈夫だよ。本当だよ」
そう言うクレイを見て、ケビンは微笑んだ。
「ああ、わかってる。でも、オレも先生するのがちょっと楽しくなってきたんだよ。こういう目を持ってるってこともわかったし、せっかくなら魔界にずっぷり浸かってみるのも良いかと思ってね。でも、先生やるからには生徒たちに責任を持つから、まず、自分についてよく知らないといけない。魔眼の使い方も知らないとな。だから、ひとまず色々準備してくるよ」
ケビンはそう言った。
ケビンは楽しげだった。これから始まることにワクワクしているようだった。
魔眼保持者であることがわかった時のように、困った顔はしていなかった。
「そっか、わかったよ」
クレイは頷いた。
ケビンが三日寝込んだとき、クレイはとても後悔した。ケビンが倒れてしまったのはクレイのせいだと思った。医者のウォルバートン先生ですら倒れた原因がわからないということは、つまり、その理由は魔界にあると直感した。
ケビンを魔界に引っ張りこんだのはクレイだ。
ケビンが体力があって、魔界にそこそこ慣れていることに、クレイは甘えてしまっていた。
ケビンの家はパッパース村だ。ここでこそ、ケビンは安全に平和に暮らしていけるのだ。
ケビンを心配して顔を見に来る村の人たちを見るにつれ、自分はなんて悪いことをしてしまったのだろうと後悔した。
だから、ケビンが元気になった時、クレイはケビンに伝えた。もう、大丈夫だから、パッパース村に戻ってくれと。
ケビンは驚いた顔をしていたが、少しだけほっとした顔で「考えてみるよ」と言った。
やっぱり、魔界は大変だったのだと思った。
ケビンと離れるのは少し寂しかったが、でも、入学当初よりは気が楽だった。
友達もできたし、少しずつ魔界の環境にも慣れてきた。
だから、もう、大丈夫だと思ったのだが・・・
(もしかして、戻ってきてくれるのかも!それなら、嬉しいな)
ケビンの言葉を聞いて、一転、クレイは嬉しくなる。ケビンの授業は、魔界の子供たちには人気なのだ。人間の世界のことを面白いと言って貰えるのは、クレイとしてはちょっと嬉しかった。
「馬鹿!クレイ!ちゃんとケビンを引き留めておけよ!野球を知ってる奴は、お前らしかいないんだぞ!」
メーラは一人、怒っていた。理由はやっぱり野球のことだった。
久しぶりのマーリークサークルは雪で真っ白になっていた。
城の屋根にこんもりと雪がつもっている。しかし、城の回りの歩道は、きれいに雪かきされていた。
寮につくと、すでに沢山の学生たちが帰ってきていた。
「クレイ!メーラ!ひさしぶりー!」
ジャムの元気そうな声が聞こえる。
見上げると、窓から満面の笑顔が覗いていた。
「ジャムー!明けましておめでとう」
「おめでとー!」
クレイたちは荷物を抱えて寮に入る。エーテ先生が両手を広げて「お帰りなさい」と言ってくれた。
クレイとメーラの部屋に荷物を運び終えると、ケビンは「それじゃあ、そろそろ行くな」と言った。
「うん、気を付けてね」
「ちゃんと戻ってこいよ!約束だぞ」
「ああ、約束だ。あ、そうだ、二人にお願いがあるんだ。これをオレの家に置いてきて欲しいんだよ」
そう言って、緑色の布で作られた袋を差し出してきた。
「うん、いいよ」
「これ、なに?」
「妖精からの頼まれもの」
「妖精!?」
クレイは驚いてケビンを見る。魔界には色んな生き物がいる。妖精もその一つだ。
しかし、妖精は滅多に人前に姿を現さないと言われている。共通の言語を持っているが、コミュニケーションをとることができるのは少ない、と、絵本には書かれていた。
「へえ!ケビン、妖精に会ったんだ。で、これ、なに?」
「妖精の服だよ。木に引っかかって取れなくなってた妖精を助けたんだけど、服を破いちまったんだ。それをジェナに直してもらったんだ」
「へえ!見ていい?」
ケビンが頷いたので、クレイは袋をそっと開けて、中に入っていた小さな服を取り出した。人間で言うところのワンピースだった。妖精のものなので、とても小さいし、軽い。
「どこが破れてたの?」
「ええと、この辺だったかな?」
破れた箇所はクレイにはわからなかった。ジェナの裁縫の腕はすごい。
「東の窓に妖精用の出入り口があるから、そこに置いておいてくれ」
「わかった。まかせとけ」
「一人で行くなよ。二人で行けよ。今の時期ならキノコは大人しくなっているし、熊も冬眠中だけど、何があるかわからないからな」
クレイとメーラにそう言って、ケビンとタロルは空へと消えていった。
「さあさあ皆!始業式が始まりますよ!荷物を置いたら校舎へ行きましょう!」
エーテ先生の声が寮の中に響き渡る。魔法だ。
あちこちからドアを開ける音や足音、翼の羽ばたきが聞こえてきた。
階段をみると、翼人の子供たちが翼を広げて飛び降り、獣人の子達が手すりを滑り降りている。のんびりと階段を降りている子もいる。
あちこちで魔力が動く気配がする。
「魔界だなあ・・・」
クレイはポツリと呟いた。




