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新学期がやってきた。

 パッパース村に別れを告げ、マーリークサークルへと向かう。

 箒で空を飛ぶ旅も、もう、慣れたものだ。

 今回、ケビンも同行しているが、ケビンはマーリークサークルに戻るのではなく、魔界の街へ行き、ケビンと同じ魔眼保持者に会いに行く事になっている。クレイとメーラを送り届けてから、タロルと共に向かうそうだ。

 「なあ、ちゃんと先生しに戻ってくるよな?」

 メーラは何度もケビンに、そう確認している。

 ケビンは今朝、クレイとメーラにしばらく教師を休職して、魔眼について調べてくると言った。

 ステアたちは既に知っていたようで、なにも驚いていなかったが、メーラとクレイは驚いた。

 「なんで!?お前先生だろう!?ちゃんと授業やれよ!」

 メーラはケビンがマーリークサークルに戻らないことにショックを受けたようだ。

 クレイは逆に、退職するのではなく、休職するということに驚いた。ケビンはパッパース村で暮らすと思っていたからだ。

 「どうして?俺はもう大丈夫だよ。本当だよ」

 そう言うクレイを見て、ケビンは微笑んだ。

 「ああ、わかってる。でも、オレも先生するのがちょっと楽しくなってきたんだよ。こういう目を持ってるってこともわかったし、せっかくなら魔界にずっぷり浸かってみるのも良いかと思ってね。でも、先生やるからには生徒たちに責任を持つから、まず、自分についてよく知らないといけない。魔眼の使い方も知らないとな。だから、ひとまず色々準備してくるよ」

 ケビンはそう言った。

 ケビンは楽しげだった。これから始まることにワクワクしているようだった。

 魔眼保持者であることがわかった時のように、困った顔はしていなかった。

 「そっか、わかったよ」

 クレイは頷いた。

 ケビンが三日寝込んだとき、クレイはとても後悔した。ケビンが倒れてしまったのはクレイのせいだと思った。医者のウォルバートン先生ですら倒れた原因がわからないということは、つまり、その理由は魔界にあると直感した。

 ケビンを魔界に引っ張りこんだのはクレイだ。

 ケビンが体力があって、魔界にそこそこ慣れていることに、クレイは甘えてしまっていた。

 ケビンの家はパッパース村だ。ここでこそ、ケビンは安全に平和に暮らしていけるのだ。

 ケビンを心配して顔を見に来る村の人たちを見るにつれ、自分はなんて悪いことをしてしまったのだろうと後悔した。

 だから、ケビンが元気になった時、クレイはケビンに伝えた。もう、大丈夫だから、パッパース村に戻ってくれと。

 ケビンは驚いた顔をしていたが、少しだけほっとした顔で「考えてみるよ」と言った。

 やっぱり、魔界は大変だったのだと思った。

 ケビンと離れるのは少し寂しかったが、でも、入学当初よりは気が楽だった。

 友達もできたし、少しずつ魔界の環境にも慣れてきた。

 だから、もう、大丈夫だと思ったのだが・・・

 (もしかして、戻ってきてくれるのかも!それなら、嬉しいな)

 ケビンの言葉を聞いて、一転、クレイは嬉しくなる。ケビンの授業は、魔界の子供たちには人気なのだ。人間の世界のことを面白いと言って貰えるのは、クレイとしてはちょっと嬉しかった。

 「馬鹿!クレイ!ちゃんとケビンを引き留めておけよ!野球を知ってる奴は、お前らしかいないんだぞ!」

 メーラは一人、怒っていた。理由はやっぱり野球のことだった。



 久しぶりのマーリークサークルは雪で真っ白になっていた。

 城の屋根にこんもりと雪がつもっている。しかし、城の回りの歩道は、きれいに雪かきされていた。

 寮につくと、すでに沢山の学生たちが帰ってきていた。

 「クレイ!メーラ!ひさしぶりー!」

 ジャムの元気そうな声が聞こえる。

 見上げると、窓から満面の笑顔が覗いていた。

 「ジャムー!明けましておめでとう」

 「おめでとー!」

 クレイたちは荷物を抱えて寮に入る。エーテ先生が両手を広げて「お帰りなさい」と言ってくれた。

 クレイとメーラの部屋に荷物を運び終えると、ケビンは「それじゃあ、そろそろ行くな」と言った。

 「うん、気を付けてね」

 「ちゃんと戻ってこいよ!約束だぞ」

 「ああ、約束だ。あ、そうだ、二人にお願いがあるんだ。これをオレの家に置いてきて欲しいんだよ」

 そう言って、緑色の布で作られた袋を差し出してきた。

 「うん、いいよ」

 「これ、なに?」

 「妖精からの頼まれもの」

 「妖精!?」

 クレイは驚いてケビンを見る。魔界には色んな生き物がいる。妖精もその一つだ。

 しかし、妖精は滅多に人前に姿を現さないと言われている。共通の言語を持っているが、コミュニケーションをとることができるのは少ない、と、絵本には書かれていた。

 「へえ!ケビン、妖精に会ったんだ。で、これ、なに?」

 「妖精の服だよ。木に引っかかって取れなくなってた妖精を助けたんだけど、服を破いちまったんだ。それをジェナに直してもらったんだ」

 「へえ!見ていい?」

 ケビンが頷いたので、クレイは袋をそっと開けて、中に入っていた小さな服を取り出した。人間で言うところのワンピースだった。妖精のものなので、とても小さいし、軽い。

 「どこが破れてたの?」

 「ええと、この辺だったかな?」

 破れた箇所はクレイにはわからなかった。ジェナの裁縫の腕はすごい。

 「東の窓に妖精用の出入り口があるから、そこに置いておいてくれ」

 「わかった。まかせとけ」

 「一人で行くなよ。二人で行けよ。今の時期ならキノコは大人しくなっているし、熊も冬眠中だけど、何があるかわからないからな」

 クレイとメーラにそう言って、ケビンとタロルは空へと消えていった。

 「さあさあ皆!始業式が始まりますよ!荷物を置いたら校舎へ行きましょう!」

 エーテ先生の声が寮の中に響き渡る。魔法だ。

 あちこちからドアを開ける音や足音、翼の羽ばたきが聞こえてきた。

 階段をみると、翼人の子供たちが翼を広げて飛び降り、獣人の子達が手すりを滑り降りている。のんびりと階段を降りている子もいる。

 あちこちで魔力が動く気配がする。

 「魔界だなあ・・・」

 クレイはポツリと呟いた。

 

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