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校長先生がくれた本は、三種類あった。
特許について書かれた本、魔界の仕事の歴史について書かれた本、そして、発明された技術と人々の関わりについて書かれた本。
どの本も、子供向けに作られたもののようで、クレイとメーラにも読みやすいものだった。
特許についての本は、ステアの説明を聞いた後だったので、良く理解できた。その本にはグラゴロステの魔宝石の話も載っていた。発見者のミラーさんは今、大きな販売会社の社長さんのようだ。
「ミラーさんってすごいんだね。5年もかけて新しい魔宝石の研究をしたんだ」
「そうなの?それは知らなかった」
メーラがこちらの本を覗き込んできた。
ミラーさんはグラゴロステという魔界の地域で、貧しい生活の中、魔宝石を研究していた。そんな苦労話も載っていた。大変だったのはミラーさんだけではない。ミラーさんの家族や友人たちも、ミラーさんの研究の成功を信じて彼を支え続けた。お金の援助や研究のための石の採掘に協力してくれたらしい。そんなミラーさん達の努力には、クレイも感銘を打たれた。しかし、それと同時に、気になることがある。
グラゴロステの魔宝石がでてくる前の時代、魔界にはグラゴロステの魔宝石よりも性質の劣る魔宝石が出回っていた。それを採掘し販売し、それで生活している人々がいたはずだ。
その人たちはどうなったのだろう?
本にはその事は書かれていない。
ただ簡単に、『現在では、魔界で使われている魔宝石の80%はグラゴロステ産のものです。』と書かれているだけだ。
ミラーさんの成功談として読む分には問題ないが、その裏で起きていることを想像すると、クレイの気持ちは落ち込む。
スラムで聞いた、生活が一瞬で崩れてしまった人たちの悲しみの声は、今もありありと思い出せる。
「・・・スラムに来た人たちは、その後どうしたんだ?」
メーラが聞いてきた。
「ええと・・・新しい仕事を見つけた人もいたよ。仕事を探すために街を引っ越す人もいた。救貧院で暮らす人もいたし・・・俺たちみたいに、路上で暮らすことにした人もいた」
「・・・そうか・・・俺はそういうこと考えたこともなかった。技術の発展は良いことだと思ってた。皆が恩恵を預かれるんだって。でも、違うんだな」
メーラは本のページをみながら、そう呟く。
クレイは、気持ちを押し出すように口を開く。
「技術の発展は良いことだと、俺も思う。仕事の歴史は変化の連続みたいだし・・・でも、どの本にも良い面ばかりしか書かれてない。絶対そんなこと無いのに」
あのとき、工場が倒産した理由を、この村に来て初めて知ることができた。
小学校で、ミルドレッド先生が教えてくれたのだ。社会の授業だった。隣の国の織物の生産量が上がった理由は、とある人物の発明が原因だった。その発明のお陰で、それまで人の手で行われていた仕事の大半を機械がやるようになったのだ。
しかし、織物の生産は上がったが、同時に、大量の人間が職を失くしてしまった。そのせいで、隣の国、ひいてはクレイたちのいる国でも失業者の問題が大きくなっている。
物事には良い面と悪い面があるとクレイは知った。
ここで作られる鉛筆で、魔方陣の事故が無くなるのはとても良いことだ。
でも、必ずその裏でなにかが起こるはずだ。
ステアも、校長先生も、メイヤーもタロルも、それを正確に予想することは難しいと教えてくれた。
「この鉛筆を魔界に売り出すなら、俺はそれを知りたい。できるだけ正確に。そうじゃないと、怖いよ」
「・・・うん、そうだな・・・」
メーラは難しい顔で頷いた。




