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 ステアは「特許」と言う制度について説明してくれた。いまいちピンと来ないところもあったが、研究開発者が、自分の発明から利益を得られるようにする制度らしい。

 クレイは鉛筆を作ってはいないが、その新しい使い方を開発したという閃きに金銭を得られる可能性があるということらしい。

 ステアはクレイに説明してくれている内に、だんだんと興奮してきたようで、口調が熱くなった。

 「そう、確かに特許を取るべきものだ。この鉛筆はこれから魔界に広く浸透していくものになるだろう。なにせ、魔方陣の下書きができるのだ。図形の失敗が大きく減るだろう。子供達が魔方陣を練習する時に事故に遭う危険も減るかもしれない」

 「魔方陣を必要としている地域でも、活躍するでしょうね。特に獣人のコミュニティ。魔方陣専門の魔法使いを必要としているところなのだけど、なかなかなり手が無いっていうし・・・」

 「まあ、場所が場所だからなあ・・・専門家自体が少ないんだ。専門家は研究に打ち込める場所に住みたがるし」

 「この鉛筆が広まれば、専門家自体が要らなくなるかもしれない!魔方陣がもっと安全に、手軽に使える未来が来るかもしれないのだ!」

 「それは言いすぎだわ」

 ステアの言葉に、メイヤーが笑う。

 あれもできる、これもできる、かもしれないと、話は広がる。

 魔方陣が便利な反面、危険度が高く、魔界では扱いにくいものだったということがその会話でよくわかった。

 「もー!そう言う話は後でいいよ!今は特許!クレイに特許を取らせてよ!誰かに横取りされる前に!」

 メーラが怒って、大人達の会話を止めた。

 「ああ、そうだったな。よし、クレイ。特許を申請するかい?」

 ステアがクレイを見ると、クレイはとても困った顔をしていた。

 「む?説明がわかりにくかったか?」

 「いいえ、わかりました。良くわかりました。質問してもいいですか?」

 「もちろんだ」

 「この鉛筆が魔界に出回ったら・・・ジョルジュ先生は先生を辞めないといけなくなるんですか?」

 クレイの質問に、その場の全員が目を丸くした。

 ついさっき、「専門家はいらなくなるかもしれない」と発言したステアは、口をぱくぱくと動かしたあと、「いや、そんなことは・・・」と言葉が続かず、黙ってしまった。

 あり得ない話ではない、ということなのだろう。

 ただ、それは・・・

 「もし、そんなことが起こるとしても、それは、もっとずっと未来の話だよ」

 校長先生が静かな口調でそう言った。

 「ずっとって、どれくらいですか?」

 「そうだな・・・この鉛筆が魔界中に広まり、安全が確実と実感されてからだろう。10年や20年でできることではない」

 校長先生の言葉を聞くと、クレイの顔が少しだけ明るくなった。

 「お前、ジョルジュ先生の仕事の心配をしてるの?」

 「先生だけじゃないよ。さっき使った漢字の書かれた魔法道具だって、どこかの会社の製品でしょう?その製品を作って売って、お給料をもらっているんだ。そうでしょう?そういう人たちも、この鉛筆がでてきたら、困るんじゃないの?」

 「そ、そりゃあ・・・でもお前、それは違うんじゃないのか?先生達の仕事のために、魔方陣を危険なままにしておいた方がいいってのか?」

 「それは・・・違うけど・・・」

 クレイは少し考え込むように指を動かした。

 「スラムにいた頃、突然街の工場が1つ潰れたんだ。働いていた従業員とその家族が、お金がなくなって、家を追い出されて、スラムの近くに集まってきたことがあった」

 「・・・」

 「工場は本当に突然潰れたんだって。社長が夜逃げしたんだって、おばちゃんやおじちゃんが泣きながら言ってた。誰もなにも知らなくて、突然の事だったって。それで、生活ができなくなって家を出ていかなきゃいけなくなったって。後からわかった話だと、元々貧乏な工場で、でも、潰れるなんて話は全然出てなくて、皆、頑張って働いていたんだって。でも、海外からの安くて良い製品が沢山はいってきちゃって、その工場で作っていたものが売れなくなっちゃったって。だから潰れたんだって」

 クレイは続けた。

 「スラムに来た人たちは言ってた。知っていたらなにか手を打てたかもしれないのにって。自分達でもなにか準備ができていたかもしれないのにって。こんないきなり放り出されるような事にはならなかったのに、って。俺もそう思った。他の人が困るのをわかっているのに、それをやるのは・・・悪いことだ」

 クレイはメーラを見る。

 「魔方陣が安全になることは、大事だと思う。でも、俺が俺の都合でそれを進めてしまうのは、なんか違う気がする」

 「・・・言いたいことはわかる」

 メーラはそう呟くと、考え込むように俯いた。

 部屋の中に沈黙が落ちる。

 その沈黙を破ったのは、校長先生の楽しそうな声だった。

 「ステア、今日からしばらくここに滞在できないかな?」

 校長先生はニコニコしていた。

 クレイは、ちょっとムッとする。

 (今の話聞いてなかったのか?すごく悩んでいるっていうのに、なに笑ってるんだ?)

 ステアは、校長先生の顔を見て「ええ、大丈夫です」と苦笑しながら答えた。校長先生はニコニコ顔のままクレイとメーラを見る。

 「クレイくん、メーラくん、もう少し考えてみなさい。君たちならきっと、良い考えが浮かぶだろう。私もそれに付き合うよ」

 そう言うと、呪文を唱えた。校長先生の手に、本が数冊現れた。

 「読んでみなさい。ヒントが書かれているから」

 そう言って、クレイとメーラにそれを押し付けた。


 

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