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クレイとメーラが鉛筆について打ち明けてから、ステアもメイヤーもタロルも、ひたすら我慢していた。

 何をって?

 もちろん、クレイとメーラの発見を、実験をもって確かめることを、だ。

 魔方陣魔法の失敗は、予想が難しく、どんな被害がでるかわからない。大昔は、そこに興味を抱き、危険に頭を突っ込んで実験する魔法使いもいたらしいが、被害が甚大になることから、現代、その実験は禁止されている。 

 うっかりミスは必ず起きており、毎年、何件も被害報告がある。魔界に住む子供達ですら、いたずら心を起こすことなく、魔方陣から距離をおいて暮らしている。痛い目を見る可能性が何よりも高いことを知っているからだ。

 ステア達はその危険度を誰よりもよく理解している。

 『鉛筆で下書きし、インクで上書きした魔方陣が安全に発動するか』どうかの実験は、用意が整うまで禁止と決めた。

 クレイとメーラは「安全なのになあ・・・」と思いつつも、決められたことを守った。

 一番ウズウズしていたのは決めた本人達だ。

 成功実例を見ているお陰で、やりたくて仕方ない。しかし、安全のため、弟子の見本になるためにも、むやみに危険な実験はできない。

 それがやっと解禁になった。

 「私がやる!」

 「いいや、ここはクレイとメーラの師匠である私が!」

 「いやいや、私が!」

 そう言って、鉛筆を取り合って喧嘩している三人の吸血鬼の姿があった。

 魔方陣用の結界を張って、後は魔法を発現するだけという段階になって、鉛筆の奪い合いが始まった。

 ステアとメイヤー、いつもは三人の中で一番大人びているタロルが、子供じみた喧嘩を続けている。

 「あーもう、交代でやればいいだろう!ほら、じゃん拳して順番決めろ!」

 ケビンが仲裁して、やっと順番が決まった。

 一番がステア、二番目がタロル、三番目がメイヤーだ。

 ステア以外は結界の外に出て、様子をうかがう。

 念のため、メイヤーがメーラの、ケビンがクレイの側に立ち、何かあったら抱えて全力で逃げる手はずだ。校長先生とマデアが、さらに魔法で結界を張り、村の方向へ被害がでないようにしてくれている。

 魔方陣用の結界は、太めの杭を地面の四ヶ所に打ち、その杭に札が張られたものだ。

 「このお札、何が書かれているんですか?こんな文字、初めてみました」

 クレイが校長先生に質問する。

 札に書かれているのは、クレイ達が知っている文字ではない。記号かと思ったが、違うらしい。画数の多い、書くのにとても大変そうな文字だ。

 「東方の文字で、漢字と呼ばれるものだ。東方の魔法は、こちらとは少し違うのだが・・・その話はまた今度にしよう。ステアが描き終えたようだ」

 ステアがこっちに向かって手をふる。魔法を発動する合図だ。

 校長先生もマデアも、ケビンもメイヤーもタロルも、軽く腰を屈めて、すぐに動ける姿勢をとる。

 クレイとメーラも少し緊張しつつ、ステアの挙動を見守った。

 火の魔法が発現した。

 ステアの前で、小さな炎が揺れている。

 大人たちは、辺りを見回し、異変が起きていないかを確認する。

 「ほら、成功した!」

 メーラが嬉しそうに呟く。

 ステアはしばし、結界の中で立ち尽くしていたが、おもむろに火の魔方陣を消し、新しい紙を手に取った。

 「ちょっと!ステア!次は私よ!」

 「割り込むな!メイヤー」

 メイヤーとタロルが結界の中に駆け込んでいった。


 実験はことごとく成功した。

 大きな事故を起こさないように、魔方陣は威力の小さいものだけを使ったが、それでも全て成功だった。

 実験を終えたステア達は、興奮して議論が止まなくなるかと思いきや、ひどくつかれた様子でソファーに腰かけていた。

 「こんなに緊張する実験は、久しぶりだわ・・・」

 「魔方陣を使う度に、何が起きるかと緊張していたせいで・・・なんか、頭が痛い」

 「体が強ばっている気がする・・・」

 死に体の三人を見ながら、クレイ達はお茶とお菓子をつまむ。

 「こんなドキドキする実験は、本当に久しぶりだった。始祖竜の毒を分析したとき以来だ」

 「本当に。活火山の奥でマグマを目の当たりにした時以来だわ」

 校長先生とマデアは、楽しそうに語らっている。

 お茶を一口飲み、メーラが口を開いた。

 「校長先生、マデア先生、この鉛筆は魔法道具として登録できますよね?」

 「そうね、できるわ。まあ、すぐにとはいかないでしょうけど・・・」

 「ってことは、流通権も取れますよね?第一発見者のクレイが!」

 メーラは身を乗り出して、聞いた。

 メーラの言葉に、ぐったりしていたステア達も顔を上げる。クレイはなんのことかわからず首をかしげた。

 「そうだね、クレイ君はまだ未成年だから、ステアが後見人になれば、取れるだろうね」

 「やったな、クレイ!お前、大金持ちになれるぞ!これで授業料も支払える!」

 メーラがキラキラした顔でそう言った。

 「ええと、どういうこと?」

 「この鉛筆を商品化するって話しか?」

 「そう!魔界で魔法道具として売るんだ。しかも、魔方陣関係だと、扱いが難しい商品とみなされるから、独占できる!」

 「? ? ?」

 メーラの話がいきなりすぎて、クレイもケビンもついていけない。しかし、金の話をされてはクレイも聞き逃せない。授業料が払えるといわれれば尚更だ。

 「とりあえず、特許申請しろ。早いもん勝ちだから、今するんだ。魔法で簡単にできるんだよ。呪文は・・・」

 「ちょ、ちょっと待ってよ。ちゃんと説明してよ。トッキョってなに?鉛筆を売るっていったって、勝手にそんなことしていいの?」

 ぐいぐい話を進めようとするメーラに、クレイは少し怒ってそう言った。わからないまま事を進められるのは嫌いだ。

 「特許っていうのは・・・ええと、この鉛筆の特許をお前が取ると、この鉛筆の技術はお前のものってことになって、鉛筆を利用するときは、お前にお金を支払わないといけなくなるんだよ」

 「・・・でも、この鉛筆作っているのは、ボータンさんだよ?その権利を持っているのはボータンさんなんじゃないの?」

 「いいや、違う。特許は申請したもの勝ちなんだ。ボータンさんはこの鉛筆を魔法道具としては作っていないし、その使い方も知らないだろう?でも、お前は発見した。これで魔方陣を下書きしても安全に使えるって。特許をとってから魔界で発表すれば、この技術はお前のものになる。あとは、ボータンさんから鉛筆を買って、それを魔界に売ればいい」

 「・・・そんなことして、良いの?」

 「良い!グラゴロステの魔宝石も、そうやって魔界に出回っている。発見者のミルマガーっておじさんが、グラゴロステで発見した石が、魔法を使うときにすごく便利だったんだ。ミルマガーさんはそれに気づいて、特許とって、魔界で販売してる。めちゃくちゃ金持ちなんだぞ!」

 メーラの話に、クレイはようやく現実味を感じ始めた。前例があるのは助かる。

 そのとき、校長先生がこほん、と咳払いした。

 「メーラ君の言うとおり、この鉛筆には特許をとる価値があると思う。特許は早い者勝ちだから、申請するなら早めがいいだろうね。この鉛筆については、おそらく今この場にいる者しか知らない。私が魔界に戻って、研究者に話をすれば、すぐに噂は広まってしまうだろうから」

 「ほら!校長先生もこう言ってる!特許とるぞ!呪文教えるから唱えろ!」

 メーラはそう言って、クレイをせき立てる。

 「待て待て、メーラ。大丈夫、クレイから特許を奪い取るような事は誰もしないから。もうちょっと詳しく話をしよう」

 ステアが割り込んできた。

 メーラはちょっと不満そうだったが、口を閉じた。

 「とりあえず、特許について説明しよう」


 

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