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校長先生は箒に乗ってやってきた。マデアも一緒だった。
「すまない。できるだけ静かに来ようと思ったのだが、これほど魔力の薄い土地は初めてで、少し力を使いすぎた」
校長先生は、地面に降り立つと、そう言った。
「構いません。ここは魔力の薄い土地なので、影響を受ける魔物はほとんどいませんので」
メイヤーが笑顔で二人を迎える。
「お久しぶりです、ホーニョル先生」
「お久しぶりです」
「ようこそ、パッパース村へ」
メイヤー、タロル、ステアが代わる代わる挨拶する。
「入学式以来だね、メイヤー、タロル。元気そうで何よりだ。ステア先生、ケビン先生、休暇を楽しんでいるかな?」
校長先生は最後にクレイとメーラに目を向けて、その真っ黒な瞳を煌めかせた。
「やあ、クレイ君、メーラ君。今回の驚きの発見をした新人魔法使いは君たちか。連絡を貰って驚いたよ。まさか、魔力を通さない鉛筆を見つけるとは・・・」
クレイとメーラも手を差し出され、少し照れながら握手した。
「はい、あの、たまたま・・・」
「クレイが見つけました。俺は確認しただけです」
校長先生と握手すると、さっきから感じている暖かい空気の温度が、更に上がった気がした。それは、握手した手を伝って、体の中に流れ込んでいる気がする。
「ああ、すまないね、まだ、少し余波がでているようだ」
校長先生は自分の手を見て、困ったように笑った。
クレイは我慢できず、質問する。
「これは、何ですか?先生の力なんですか?なんだか、暖かいものが溢れているんです」
校長先生は頷く。
「そう、私の力だ。私が不死鳥の生まれ代わりであることは知っているかな?うん、そうなのだよ。不死鳥は火の鳥とも呼ばれる生き物で、火の魔法ととても相性が良いらしいのだ。私が魔法を使うと、火の魔法の元素となるものが、活性化されるらしい。魔界にいるときはそれほど影響を出さずに魔法を使えるのだけれど、ここだと、ちょっと難しい」
校長先生はそう言って、周りを見回す。
校長先生の周りの空気は、やはりとても暖かい。冬だというのに、まるで春の空気のようだ。
校長先生は古城を見上げ、「ここが君たちの住まいなのか?立派だ」と微笑んだ。
ステアは嬉しそうに先生を中へと案内する。
校長先生は古城の中を見ながら「センスのいい住まいだ。さすがステアだ」とか「おや、中庭にあるのはカンザザの苗ではないか?タロル、君が育てたのか?魔力の薄いこの地で?すばらしい」とか「ああ、このレースは知っているぞ、君の手作りだねメイヤー。相変わらず器用だ」と、吸血鬼の大人達を誉めた。誉められた三人は嬉しそうに頬を上気させていた。
「入学式でも思ったけど、校長先生って会った人のこと全部覚えているのかな?」
「そうなんじゃねえ?記憶力良いんだよ。この世のすべてを記憶してるはずだし。記憶喪失じゃなければ」
メーラの言葉に、なるほどと納得する。
校長先生は出されたお茶とお茶菓子をも絶賛してくれた。
そして、いよいよ本題にはいる。
「さて、件の鉛筆なんだが・・・」
校長先生の瞳がキラリと光る。
不死鳥といえども、やはり魔法使い。探究心はステア達と同等以上にあるらしい。ステアが取り出した鉛筆を受けとると、熱心に見回した。
「ふむ・・・いたって普通の鉛筆だな・・・いや・・・」
またもや、周りの空気が暖かくなった。
校長先生が魔法を使ったのだ。
「とても、魔法がかかりにくい材質のようだ。そうか、この鉛筆の材料である木や鉛は、魔力を持たず成長したのか・・・」
「そうなのです。おそらくそれが、魔方陣を混乱させない原因ではないかと考えています」
「魔界のグーニャ地方にも魔力の薄い土地はありますが、ここは更に薄く・・・」
「この地域に鉛筆工場はあと5つあるそうなんです。それぞれで比較してみようと思っているんですが・・・」
魔法使い達はお茶を片手に、魔力を通さない鉛筆について議論し始めた。クレイとメーラは大人達の議論についていこうと必死に耳を傾ける。ケビンはすぐに諦め、話が纏まるのを待つことにした。
しばらく議論が続いた後、校長先生が荷物の中から何かを取り出した。棒と記号のようなものが書かれている札が見えた。
「これはマーディン社製の魔方陣用結界だ。これならば、何かが起きても対処できると思う」
ステア達はそれを見て、ぱっと笑顔になった。
「実験ですね!」
「ありがとうございます!」
「よし!クレイ!メーラ!実験するぞ!」
ステアが嬉しそうに、目を輝かせてそう言った。




