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その日は朝から、吸血鬼の大人達がウキウキしていた。
「お茶はダスマール産のものが良いわよね?あそこのお茶は美味しいし」
「このお茶請けは気に入っていただけるだろうか?」
「いやあ、緊張するなあ。校長先生とお話しするのは何年ぶりかなあ・・・」
今日のお客はマーリークサークルの校長先生だ。クレイとメーラが発見した鉛筆の効果を確認するために、ステアがそれ専門の研究者に連絡を取るために仲介してくれる人を探したとき、校長先生がやると言ってくれたらしい。その前に実物を見たいと、この村に来ることになったのだ。
ステアとメイヤーとタロルは、ソワソワしっぱなしだ。
そんな三人を見て、クレイとケビンは首をかしげる。
「そういえば、校長先生ってどうしてあんなに人気があるの?」
「聞いた話では、大昔にすごく立派な事をした、らしいんだ。詳しくは知らないけど」
「そうか、ケビンとクレイはあの方の事を知らないんだな。ふふふ、それでは教えて上げよう。彼は・・・彼はなんと!あの!不死鳥なのだ!」
ステアが両手を広げて、さあ驚け!とばかりに言った。
「ええと・・・校長先生は翼人ってこと?」
「翼をもってるんですか?」
「違う!不死鳥なのだ。あの、不死鳥!炎の中から生まれ変わる、唯一無二の存在!」
ステアが唾を飛ばしてそう言うも、クレイとケビンはいまいち感動できない。
「魔物の一つだろう?なんか、すごいの?」
ケビンのこの言葉に、ステアどころか、メイヤーとタロル、そして、メーラまでも目を丸くした。
「不死鳥を魔物の一つと思わないで!」
「確かに魔物だが、伝説の生き物なのだ!」
「300年前までは、その存在すらあやふやだったんだよ。校長先生がそうだとわかるまで、本当はいないのではないかと考えられていたほどだ」
「へえ・・・」
吸血鬼達の力説で、不死鳥なるものが、なんだかすごい生き物なのだということはわかった。
しかし、気になることがある。
「校長先生がそうだとわかるまでって・・・校長先生はそれを秘密にしていたってことか?」
「いいや、違う。どうやら、校長先生は産まれ直したときに記憶をなくしてしまったようで、自分が不死鳥だということを知らずに育ったらしいのだ」
「え!?そんなことある?っていうか、親は?産まれ直すってなんだ?」
「そ、そこからか・・・」
ステアは少しだけショックを受けたようだった。
不死鳥とはその名の通り、不死の鳥。永遠の命を持つと言われる伝説級の魔物だ。
しかし、不老不死というわけではない。不死鳥も年を重ねるとその肉体は老い、いずれ老衰でその体は動かなくなる。もちろん、何かしらの事故で命を失うこともある。不死鳥はその度に産まれ直す。
肉体が終わる時、その体は炎に包まれる。焼け残った灰の中から、卵が産まれ、そして、また、不死鳥として産まれるのだ。
では、何故、不死と呼ばれるかというと、体は新しく生まれ変わるが、記憶は続いているからだ。大昔、この世界が産まれたときから世界と共に生きており、この世の全てを記憶しているのが不死鳥という生き物なのだ。
ケビンとクレイは、ステアの説明を聞いてやっと校長先生のすごさを理解した。
「それは・・・すごいな」
「じゃ、じゃあ、校長先生はずっと生きているんですか?もう、何百年も前から?」
「そうなのだ。すごいだろう?」
やっと、予想通りの反応がもらえて、ステアは鼻の穴を膨らませた。
「あれ?でも記憶を失くしてるって?」
「そうなのだ。校長先生は・・・」
ステアがそう言いかけたとき、不思議な波動を感じた。突如、空気に暖かみが混じった気がした。
「これ・・・校長先生か?」
ケビンが驚いたように呟いた。
「ああ、そうだ。もうすぐ到着のようだな」
ステア達は嬉しそうに立ち上がり、扉を開けて外に出た。
暖かい何かはどんどん近づいてくる。
「マーリークサークルにいたときは、こんな感じしなかったよ?」
「校長先生が魔法を使っているからだよ。あの人の魔法は、特別だから」
メーラが空を見上げながら教えてくれた。
三角山の向こうから、何かが近づいてくる。
とても、とても大きな何かだ。姿は見えないのに、こんなにも存在を感じることができるものを、クレイは他に知らない。
「なんか、太陽みたいな力だな」
ケビンがポツリと呟いた言葉が、クレイの胸にストンと落ちた。




