26
古城へと帰ると、予想通り、怒りに顔を真っ赤にしているメイヤーとタロルがいた。
そして、その側にメーラに良く似た赤ん坊がいた。首がすわって、はいはいが出来るようになったくらいの年の子だ。
「え?まさか、それって・・・」
「メーラよ。罰として不自由な頃に戻って貰ったわ」
メイヤーがため息をつきながら、そう教えてくれた。
「まったく・・・よりにもよって、魔方陣で危ないことをするなんて・・・」
「まったくだ・・・」
タロルも唸るような声で呟く。
メイヤーはそんな両親を見上げて、反省はしているものの、赤ん坊に戻されて腹も立っているらしく、可愛らしい頬を膨らませている。
「あははは!かっわいい!メーラ!」
ジェナがメーラにかけより、抱き上げる。
「吸血鬼も、赤ちゃんの頃はふっくらしているのね。ちょっと安心したわ」
「赤ちゃんの頃は母乳で育つからね」
メイヤーがそう言って、メーラのふくふくほっぺをつつく。その顔には、だんだんと笑みが浮かんでいく。
「うふふ、可愛い。膨れっ面も、この年なら全然可愛い」
吸血鬼の大人達の怒りは、メーラの可愛さに、どんどん消えていった。
メーラは可愛い可愛いと言われることに、腹を立てているようだが、赤ちゃんが膨れっ面をしても、ただ、可愛いだけだ。
「ええと、メーラはメーラなのか?体が縮んだだけ?」
「ええ、そうよ。頭の中は、今のメーラのまま。だからこそ、罰なのよ。体がうまく動かせないし、魔法も使えないしね。自由があんまりないの」
「なるほど、確かに」
メーラは既に不自由を感じているらしく、抱っこして離さないジェナの頬を、小さな指を使ってつねっている。
「痛くないよー。ねえ、ちょっと村まで連れていってもいい?皆に見せたいの!」
「いいわよ。でも、それは後でね。あと、二、三日はそのままにしておくつもりだから。その前に、クレイくん。あなたにも話があるわ」
メイヤー、タロル、そして、ステアが真剣な顔でクレイを見る。
クレイは緊張した様子で、三人を見上げた。
メイヤーが口を開き書けたとき、クレイの前に、ミック、ジャック、ローワンの三人が立ちふさがった。
「待ってくれよ、クレイは何も知らなかったんだ。あのときは、ステア先生に連絡を取りたい一心だったんだよ!」
「危険だってわかってたら、クレイは絶対にしないよ」
「そうだよ、クレイは悪くないよ!」
子供達の訴えに、メイヤーはにっこりと微笑んだ。
「ええ、わかっているわ。クレイくんが、魔法にとても真剣に向き合っていることは、よく知ってる。今回のことでクレイくんを叱るとすれば、それは、メーラと二人だけで話をしていたことね。そして、メーラが鉛筆の効果を確かめるためにしたことを止めてくれなかったこと。私たちや先生に相談してくれなかったことよ」
「うばばああ!ぶぶぶ!」
メーラが唾を飛ばしながら、何かを言った。
「ええ、わかっているわ、メーラ。クレイくんはあなたを止めたのよね?あなたはクレイくんの鉛筆を取って、無理やり実行した。だから、あなたは赤ちゃんになったの」
「ぶぶ・・・」
「あ、あの・・・」
クレイは声をあげた。
「メーラは、確かに、止めても聞かなかったんですけど、俺も本気で止めなかったんです」
「ええ、そのようね。でも、いくら安全だってわかっていたとしても、先生が禁止といった事をもっと重く受け止めて欲しかったわ。メーラにもクレイくんにも。禁止事項っていうのは、意地悪でいっているんじゃないの。ちゃんの理由があるのよ。それは怪我をさせないためであったり、危険から守ろうとしているってことなの」
「はい・・・」
「だから、クレイくんも罰を受けて貰います。ジェナちゃん、メーラをちょうだい」
ジェナがメイヤーにメーラを渡すと、メイヤーはクレイ抱っこさせた。
「メーラがもとの姿に戻るまで、クレイくんが面倒見てね。赤ちゃんの世話は大変よ」
メイヤーは悪戯っぽく微笑んだ。
クレイの腕の中のメーラはそこそこずっしりしていて重かった。
「あ、あの、お世話って・・・何を食べるんですか?あ、オムツも?」
「そうよ。安心して。粉ミルクがあるし、オムツは私がやるわ。さすがにそれはメーラも恥ずかしいだろうし・・・あ、そうだわ、ミッシェルさんのところにいって、貰い乳しようかしら?ミッシェルさんの血が好きだもんね、メーラ。きっとお乳も美味しいわよ」
「ぶぶぶぶ!」
メーラはおもいっきり首を横にふった。
「え?嫌なの?」
「おっぱい貰うのが嫌なんだよ。メイヤーさん、こいつも男なんだ」
ケビンがそう言うと、メイヤーは「それもそうね」と頷いた。
メーラはほっとした顔つきになった。
それから三日ほど、メーラは赤ん坊の姿ですごし、クレイはメーラにつきっきりでお世話をした。
ミルクやオムツはメイヤーとタロルがやってくれたが、それ以外は全てクレイに任せられた。
本当の赤ちゃんとは違って、そこそこの意志疎通が出来てはいたが、話が出来ない、上手く動けないメーラは、時折癇癪を起こした。大泣きすることもあった。
しかも、メーラは不完全ながら魔法を使えた。全然操作が出来ていないものだから、危なっかしくて仕方ない。オモチャを飛ばすくらいなら良いのだが、水の入ったグラスや、食器、ナイフなんかを魔法で動かそうとするから、ハラハラしっぱなしだ。しかも、魔法を使っているときはやけに大人しい。妙に静かだなあと思って、振り返ってみれば、顔を真っ赤にするほど集中して、水のたっぷり入ったポットを浮かそうとしていた。もう少しで、頭の上に落っことすところだった。
夜泣きもした。最初は何かの病気にでもかかったのかと不安になったが、メイヤーとタロルが「身体に引っ張られているんだよ。赤ちゃんはこんなもんさ」と教えてくれた。
三日後、ようやく罰の時間を終えて、メーラが元に戻ると、クレイはほっとして脱力した。
「大変だったなあ、二人とも」
ケビンがそう言って、労ってくれた。
「赤ん坊って、不自由だなあ・・・」
「赤ん坊って、すごく危険だよ・・・」
メーラが元に戻った日、クレイは久しぶりに熟睡し、メーラは久しぶりに身体を思いっきり動かして遊んだ。
そして、次の日、パッパース村にお客様がやってきた。




