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 村へと帰る道すがら、クレイはこれまでの経緯を説明してくれた。

 最初に気づいたのは、魔方陣学の授業で、ジョルジュ先生から注意事項を言われたときだったそうだ。

 「インクを使って魔方陣を書くときは、特に注意が必要です。 絶対に重ね書きしないこと。図形を間違えてしまった場合は、すぐに書いた紙は破棄しましょう。練習用の紙に書いた魔方陣には絶対に魔法を注いではいけません。魔方陣の事故はとても多いです。皆さんも知っているとは思いますが、重ね書きによる失敗が一番多いのです」

 ジョルジュ先生がこの注意事項を口にしているとき、生徒達は真剣な顔つきで聞いていた。魔方陣を書くのが苦手なジャムも、神妙な顔つきだった。

 だから、ジョルジュ先生の注意事項がとても大事なことなのだということは、クレイにもわかった。

 しかし、クレイは既に魔方陣を重ね書きした上に、その魔法を成功させている。どういうことだろう?と不思議に思った。

 「その時は、たまたま成功したんだって思ったんだけど、そうじゃないって気づいたんだ」

 魔方陣学の授業中、クレイも含めほぼ全員の生徒が何かしらの失敗を経験した。

 うっかり重ね書きしてしまう子もいたし、図形の組み合わせを間違えて予想していない魔法を発現させてしまう子もいた。図形を上手く書けずに失敗する子ももちろんいた。

 魔方陣の失敗は、その結果が予想しにくい。

 それが一番怖いところでもあるのだ。

 火の魔法をだすつもりでいたのに、何故か水の魔法が出たり、風の魔法になってしまったりする。

 その威力が小さいうちは良いのだが、何をどう間違えたのか、教室中に突風が吹き荒れたり、海水が降ってきたこともあった。

 クレイ達が怪我をすることはなかったが、それはひとえにジョルジュ先生と、特別な教室のお陰なのだ、ということが、最近になってクレイにもわかってきた。

 おそらく、教室には何かしらの仕掛けがあり、大事故になる前に魔法を弱めてくれる働きをしている。ジョルジュ先生も魔法を使って、生徒達を守ってくれているのだ。ジョルジュ先生は杖を持っていない。魔方陣学は紙とペンを使って使う魔法なので、あまり使わないからかと思ったが、そうではなかった。ジョルジュ先生は杖無しでも、強力な魔法を使うことができるようなのだ。短縮した呪文とローブに縫い付けた魔方陣、そして、ネックレスや指輪、イヤリングなどの装飾具にみせかけた魔法道具がそれを助けているらしい。そのおかげで、ジョルジュ先生は手放しで魔法を発動できる。とある生徒に図形を教えている最中に、ジャムが失敗して火柱を天井まで上げてしまった時、ジョルジュ先生は片手を振るうだけでその魔法を止めてしまった。

 失敗は本当に些細なことで起きる。

 この教室のなかだからこそ、生徒達は自由に魔方陣に魔力を注ぐことができるのだ。教室の外では絶対にやってはいけない。もちろん、生徒達もやらない。何が起こるかわからないことを、魔界に住む彼らは見に染みて知っているからだ。

 こんなにも簡単に失敗する魔方陣が、重ね書きして、たまたま成功するなんてあり得ない。

 クレイは魔方陣学を勉強していくなかで、そう結論付けるしかなかった。

 では、どうして、クレイは成功したのか?

 「ずっと考えていたんだ。でも、わからなかった。先生に質問すれば、教えて貰えたかもしれないけど・・・自分のしたことを言うのが、ちょっと怖かった」

 「だよな、わかる」

 ケビンが頷くと、クレイはちょっとほっとした顔をした。

 それからクレイは悩みに悩み、ふと、鉛筆が成功の理由ではないかと気づいた。

 魔方陣の失敗をなくすための研究があると聞いたからだ。

 魔方陣学のための特別な教室造りのように、できるだけ事故を大きくしないための研究だ。その一つに、魔力を通しにくいインクや鉛筆、紙などの筆記具を作るというものがある。宿題をするときに使う鉛筆とノートもその一つだ。間違って魔法を注いでしまっても発現する魔法の威力を、かなり小さくしてくれる、らしい。

 クレイが重ね書きした魔方陣は、パッパース村で購入した鉛筆で下書きをした。そして、ステアが持っていった魔法のインクで上書きをしたのだ。紙も、ステアの部屋にあった一番綺麗なものを使った。

 マーリークサークルの魔方陣学の授業で使っている道具と、唯一違うのは、この鉛筆のみだ。

 この鉛筆はパッパース村の近くにある工場で作られている。その工場で、特別な製法で作られているとしたら・・・

 「っていう俺なりの仮説を思い付いて、メーラに相談してみたんだ。そしたら、メーラも試してみようって言い出して・・・俺は止めなきゃいけなかった。でも、俺もどうしても謎の答えが知りたくて・・・」

 メーラは一応安全を考えて、魔方陣学の授業中にこっそりとクレイの鉛筆を使い、重ね書きした魔方陣に魔力を注いだ。そして、成功したのだ。一度だけではない。二度、三度と実験し、全て成功した。これは偶然じゃない、鉛筆に秘密があるのだとクレイとメーラは考えた。

 「なるほど、それで工場長について情報を集めたのか。マジシャンだった頃の通り名を聞いて、本当の魔法使いかもって思ったんだな」

 「うん。でも、違った。これは、魔法の鉛筆じゃないんだね」

 「そうみたいだなあ。でも、それじゃあ、どういう理由なんだ?」

 ケビンは首をかしげた。

 

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