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マーリンとジョナサンから少しずつ血を貰うと、アカーリアはお腹一杯になった。テッドも血の提供を申し出てくれたが、それは丁寧に断った。その代わり、一緒にお茶とお菓子を食べる約束をした。アカーリアが家に遊びに来ると約束すると、テッドは大喜びした。
「ああ、ほら、顔色が良くなった。うんうん、子供はこういうか顔が一番良い」
エルダおばあちゃんが、アカーリアの頬を撫でて、嬉しそうにそう言った。しわしわな顔を更に、しわくちゃにして笑っている。
「どうしてわかったんですか?私、元々そんなに顔色良くないのに」
「見てればわかるよ。子供が元気じゃないときは、すぐわかる。ばばには子供が沢山いるからね。アカーリアちゃんもうちの子になるかい?」
エルダおばあちゃんの言葉に、マーリン達が笑う。
「だめよ、ばあちゃん。アカーリアちゃんにはちゃんと親御さんがいるんだから」
「いいんだよ、パッパース村のお母さんと思ってくれれば良いんだ。何かあったらばばの所においで。外で倒れる前においで。いいね?」
「あ、はい・・・」
エルダおばあちゃんの目は真剣だった。おばあちゃんはすごくアカーリアを心配してくれていたらしい。それが伝わってきた。
「アカーリアちゃんが魔法に一生懸命なのはわかるよ。でも、倒れるまでやっちゃ駄目よ。生き物はほどほどが大切なの。人間も吸血鬼もそうよ。頑張るのはとても素晴らしいことだけど、力を抜くやり方を覚えるのも大事よ。頑張り続けるためには、ちゃんと休憩もしないと」
「・・・はい」
アカーリアは頷く。
力を抜け。
何度も同じ言葉を言われた。
家庭教師のスージー先生にも、ファヴァーヴァル先生にも、イゴー先生にも、ここに来てステア先生にもそう言われた。
でも、どうしても上手くいかなくて・・・
「あ!」
そこで、やっとアカーリアは気づいた。
自分は力を抜くのがとても下手なのだ。そこが原因だ。
今まで、とにかく頑張らなければと必死になってきたが、アカーリアが今やらなければならないのは、力を抜くやり方を覚えることだ。
頑張らないことを頑張ること。
アカーリアは恥ずかしさのあまり、顔が赤くなっていくのを感じた。
皆があれほど言ってくれていたのに、アカーリアはある意味、それを全無視していたのだ。
力を抜くことが怠惰だと勘違いしていた。
「どうしたね?」
突然、俯いてしまったアカーリアを、エルダおばあちゃんが心配そうに覗き込む。
「ううん、私ってやっぱり馬鹿なの。気づくのがいつも遅いの・・・お腹が空いていることにも気づかなかったし・・・」
エルダおばあちゃんは笑った。
「子供っていうのはそういうもんだよ。なにかに夢中になっていると、お腹がすいたことに気づかずにイライラし始めるんだ。だんだん上手くいかなくなってくるからね。大人になると、何となくわかるんだよ。自分は今お腹が空いてるって。だからなんだかうまくいかないんだって」
「それ本当?」
メーラが興味を持った様子で聞いてきた。
「そうだよ。お腹が空いているのに遊びに夢中になってたり、眠いはずなのに起きてたり、子供は困ったもんさ。今、やりたいことを続けたいんだよ。何がなんでもね。それを何度も経験して、わかってくるんだよ。自分の今の状態ってやつを」
「ふうん・・・でもそれ、うちの父ちゃんも時々やってる」
「大人になってもやっちゃう子はいるね。ジョナサンもそうだよ。絵を描いているといつまでたっても食事に来ないんだ」
エルダおばあちゃんは大真面目な顔で頷く。ジョナサンは絵を描くのが趣味だという。確かに彼の服にはあちこちに絵の具がくっついている。
「おばあちゃん、夢中になってる時に力を抜くにはどうしたらいい?」
「ううーん、そうねえ、深呼吸をするとか、一旦、別のことをやるとか、かねえ・・・」
エルダおばあちゃんは、あれこれと思い付くまま案を出してくれた。
(よし、これからは、力を抜くやり方を覚えよう)
アカーリアはそう心に決めるた。
肩とお腹にいれた力を抜くために、深呼吸してみる。
少しだけ、光が見えた気がした。




