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「あ、ありがとう」
アカーリアはテッドから焼きいもを受け取る。
テッドは嬉しそうに微笑んだ。隣に腰掛け、自分の芋に息を吹きかける。熱いのだ。
アカーリアは焼きいもを半分に割ってみた。芋の中身は黄金色になっており、とても美味しそうだ。
「食べて。美味しいよ」
テッドに言われ、アカーリアは口をつける。
全部は食べられないが、テッドがアカーリアのために持ってきてくれたことが嬉しく、食べられるだけ食べようと思った。しかも、大きい方をくれたのだ。
熱々の焼きいもは、すごく甘かった。
「おいしい」
アカーリアが呟くと、テッドはますます嬉しそうに笑った。
お芋は本当に美味しかった。半分でお腹一杯になると思っていたが、半分ではもの足りなかった。
(どうしよう・・・でも、これ、血じゃないし・・・でも、食べたい)
吸血鬼であるアカーリアにとって、一番良い食料は人の血だ。野菜や肉も食べることはできるが、消化機能が人間のように強くないので、たくさん食べるとお腹を痛めてしまう。
それに、もともとそんなにたくさんは食べられないはずなのだ。
しかし、今日のアカーリアは違った。
目の前の焼きいもが、血液に匹敵するくらい欲しかった。手に持っている分を全部食べて、どうせなら、もう一個くらい食べたいと思ってしまっている。
「テッド、アカーリアちゃん、食べてるかい?」
そこへ、村のおばあちゃんがやってきた。もう、70歳を越えたエルダおばあちゃんだ。少し腰が曲がっているが、足腰はしっかりしている。
手にお芋と野菜が乗った木皿を持っていた。
「ほら、食べなさい。子供は一杯食わんといかん」
そう言って、テッドとアカーリアの前に、木皿をおいてくれた。
テッドはすぐに芋に手を伸ばす。
アカーリアもつい、手を伸ばしてしまった。こんがりと焼けた大根だった。
口に含んでみると、口の中でとろけた。
残っていた芋も結局食べてしまい、しかも手が止まらない。
「あ、アカーリア!?お前、大丈夫か?」
いつの間にかメーラがそばに来ていて、目を丸くしてアカーリアを見ていた。
「な、なんか、手が止まらなくて・・・」
「腹へってんのか?でも、お前、血は吸ってきたって言ったよな?」
「うん、そうなんだけど・・・」
「一杯食べなさい。お腹が空いていると気分が落ち込んでしまうからね。たくさん食べて元気だしんさい」
エルダおばあちゃんがお茶まで持ってきてくれた。
アカーリアはお茶を飲み、さらに焼き野菜に手を伸ばす。
それを見たメーラが慌てたように母親のもとへ走った。メイヤーが様子を見に来てくれた。
「アカーリアちゃん、お腹すいているの?」
「そうみたいです。すごく美味しくて」
メイヤーも大根を口一杯頬張るアカーリアを見て、目を丸くしている。
「当然よ。うちの村の野菜は美味しいもん」
エルダおばあちゃんが福福とした顔でそう言った。
「そ、そう。でも、それくらいにしておいた方がいいわ。お腹がすいているなら、一旦帰って血を貰ってきた方がいいわね。消化の魔法は使ってる?」
「はい」
アカーリアは頷く。
焼きいもを食べ始めたときから、消化を助ける魔法を使っている。これを使わないと本当にお腹が痛くなってしまう。手首のブレスレットは外した。
メイヤーさんの言葉は尤もだったので、アカーリアは食べたい欲求を我慢して、野菜を皿に戻した。
それを見たエルダおばあちゃんが、アカーリアに腕を差し出してきた。
「帰らなくて良い。このばばの血を食べなさい」
「おばあちゃん!それは止めて!」
傍で話を聞いていた村の女性が、慌てたように声を上げる。エルダおばあちゃんの娘のソーニャだ。
「なに言ってんだい。この子を見なよ。お腹を空かせているんだよ。顔色も悪い。血くらいなんだってんだい?平気だよ。この子は小さいし」
吸血鬼は基本人間よりも血色が悪い。アカーリアはそれを言おうと思ったが、お腹がすいていることは事実だったので黙っておいた。
「それはわかってるわよ。でも、なにもお母さんの血をあげることないでしょう。他にプリプリして血の気の多い子が沢山いるんだから。マリーン!ちょっとこっち来て!あ、ジョナサンも連れてきて!」
ソーニャの言葉に、ソーニャの子供であるマリーンとジョナサン、おまけにそれ以外の村人達もなんだなんだ?と集まってきた。
「どうしたの?お母さん」
「アカーリアちゃんがお腹すいたみたいなの。あんた達、血をあげてくれない?じゃないと、おばあちゃんがあげるって言ってんのよ」
「え!?駄目だよ、ばあちゃん。それ以上干からびたら死ぬよ」
「僕のをあげるよ。やっぱりお腹すいてたんだね。顔色悪かったから心配してたんだよ」
ジョナサンがにっこり微笑んで、腕捲りした。
「あ、首の方がいいのかな?」
「あ、いえ、腕でも大丈夫です。でも、良いんですか?その・・・血を吸うんですよ?」
アカーリアは村人達の反応に戸惑ってしまった。人間にとって血を吸われることは、あまり良いことではないと教わってきた。人間にとって血液は大切なものだ。失いすぎれば死ぬ。
だから、アカーリア達、吸血鬼は血を吸う相手を慎重に選ぶ。できれば事情をわかって貰い、きちんと対価をはらって血をわけてもらう契約をする。
契約できないときは魔法を使って記憶を消す。
そうしないと、血を吸われたと気づいた人間達は恐怖でパニックをおこすからだ。
しかし、ジョナサン達に怖がっている様子はない。
「アカーリアちゃんなら平気よ。小さいし、そんなに吸わないでしょう?ステアさんとかタロルさんはちょっと怖いけど・・・」
「そうそう。メーラ君も吸いたければいいわよ」
「え、本当?」
メーラは嬉しそうに目を輝かせる。
アカーリアはメイヤーを見る。
この村に来た時に、メイヤーとタロルから村の人間から血を吸うことは禁止と言われていた。
もし、吸うことがあればケビンかウォルバートン先生からで、必ず事前にお願いすること、と。
「ありがたいわね。皆さんがこう言ってくださっているから、ありがたく頂きましょう」
メイヤーにそう言われ、アカーリアはほっとして頷いた。




