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ケビンの授業を受けた三年生達に、感想を聞いてみたんだ。全員、魔法を使わずに行動することに対して、ものすごく驚いていた。新鮮だったとほぼ全員が言っていた。中には、ちょっと怖かったと言う生徒もいた」
「あ、そうなの?たしかに、全学年ぎょっとしてたもんな。魔法使うなって言うと」
ケビンの言葉にステアは頷く。
「当然だと思う。産まれてからこれまで、魔法を上達させろとは言われても、魔法を使うなと言われたことは無いはずだ。特に、マーリークサークルに通う子供達はな。私も、お前から授業内容を聞いた時は驚いた。天地がひっくり返った気がしたほどだ」
「そこまで?」
「ああ、そこまでだ。本当に驚いたのだ。あんなに驚いたのは新種の青キノコが発見された時以来だ!青キノコとは本来無毒のキノコなのだが、10年前に見つかった青キノコには毒があるのだ。しかも匂いを嗅いだだけで気を失うほどの毒性を持っている。食べれば数時間のうちに確実に死ぬ。そんなものがとある民家の庭先で見つかったんだぞ。こんな恐ろしいことがあるか?しかも、キノコの分類が始まって500年の間、誰も発見できなかった!!」
「はいはい、わかった。とにかく驚いたんだな。それで?アカーリアの新しい修行とどう関係があるんだ?」
ケビンは逸れた話をもとに戻す。
アカーリアも身を乗り出していた。
「そうだったな、すまない。そう、三年生全員が驚き、そして、ちょっと怖いながらも楽しんでいたようだった。そして、その中でも特に面白がっていた数人は、それから何度か自分達だけで魔法禁止のルールを作って過ごしていたようだ。あえて魔法を使わずに過ごすのだ。すると、数日後彼らの魔法の精度が上がっていた」
「っ!?どうしてですか?」
「体で感覚をつかんだからだ。ソルトベイルという学生がいるのだが、彼は魔法で物を掴むのが苦手だったのだ。ついつい力を入れすぎたり、弱すぎたりしてな。しかし、ケビンの授業でボールを自分の手で持ったり、投げたり、蹴ったりしているうちに、力加減がわかったらしい。物によって、持つ位置というものは変えた方がいい、というのが彼の結論だ。ボールなら真ん中、重いものなら下から持ち上げる。長いものなら当然真ん中を持った方が安定する」
「あ、なるほど、ジェンガの駒なら真ん中だな」
「そうだ、ソルトベイルはそれまではしっこを掴んでいた。だからぶらぶらと揺れて安定しなかったのだ」
ステアが手でジェンガの駒を掴んだ。駒は一瞬逃げようとしたが、ステアが魔法をかけると大人しくなった。
「駒を積み上げるときも、ただ置くのではなく、端を合わせるために微調整がいる。その時にどこを押して移動させるか、どれくらいの力加減かということが大事だ。彼はそれが上手くいってなかった」
ステアは指先を使い、そっと駒を積み上げ、端を揃えて綺麗に並べた。
「彼らはジェンガをあえて魔法を使わずにやってみたらしい。楽しかったようだぞ。魔法を使うときとはまた、違った難しさがあったらしい。腕をぶつけて倒してしまったりとかな」
「ああ、やるよなあ。指が震えたりとかも、魔法じゃあ無いだろうし」
クレイはステアとケビンの会話を聞いて、驚いた。どれもクレイにとっては当たり前のことで、既に知っていることだった。しかし、三年生の先輩はそれに今気づいたと言う。
「ソルトベイルも、全く知らなかった訳じゃないんだ。なんんとなくは知っていた。しかし、それを何となくではなく、ちゃんと言語化しようとしている。いろんな形、重さのものを、何処を掴んだら一番安定して持ち上げやすいかという研究を始めた。そして、それを聞いた同級生達の魔法も、やはり精度が上がった。魔法実験の事故で、危険な物質を取り落として怪我をするという事故は消して少なくはない。安全策の進歩に役立つかもしれない。他の先生達も興味を持っている」
「・・・ってことは、今までは、ただ持つって感じだったんだな」
「そうだ。持ち上げる力は魔力を込める量に比例する。当然、これは個人差あるし、無尽蔵に込められるわけもない。持った後、魔法で防護壁を何重に張るのが対策だった。しかし、安定して持ち上げる方法が実用化すれば、それももっと簡素化できるかもしれない」
ステアはアカーリアを見る。
「魔法を使わず、まず自分の体で色んな行動の感覚を掴むのだ。ソルトベイルのように、今まで気づかなかった事に気づけるかもしれない。魔力を込める時に力が入るのは、緊張もあるだろうが、力加減がわかっていないという事が原因かもしれない。どうだ?このやり方について、理解できたかな?」
アカーリアはにっこりと微笑み、頷いた。
「とても良く理解できました。やってみます」
そう言って、ステアが用意してくれた青い石のついた紐を、腕に巻いた。




