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 「うむ、とてもよい質問だ。しかし、済まない。今の私にはその質問に答える知識がないのだ。憶測だけはあるのだがな」

 ステアが笑いながらそう言った。

 「師匠も知らないんですか?」

 「ああ、魔眼保持者の魔法の使い方は、我々の魔法の使い方のように、解明されていないのだ。違いがある、ということだけはわかっている。我々は魔法を使うとき、呪文を唱える。これは何故だ?クレイ」

 「自分の持つ魔力を、力として使えるようにするためです。魔力は呪文によって発動し、いろんなものに作用します」

 「その通り。風を操ろうと思えば、魔力を要に風に作用させる。このように」

 ステアは呪文を唱え、手近にあったタオルを風で浮かせた。

 「呪文の基本的な構成は?メーラ」

 「魔力の引き出し+魔法をかける対象の指定。基本の基本はこの2つ」

 「その通り。己の魔力引き出し、風に作用させる。あとはそれを操ればいい」

 タオルがヒラヒラと漂い、洗濯物かごの中にぽとんと落ちた。

 「では、アカーリア、呪文の発展系をいくつか言えるかね?」

 「呪文の発展系は主に三種類に分けられます。基本の形にさらに魔法の種類や魔法の作用を複雑にしたものを組み合わせるもの。二つ目は魔力の出所をかえるもの。最後の一つは前の二つのの複合体」

 アカーリアはすらすらと答えを言った。まるで本の一文を暗唱しているようだ。

 ステアの表情に称賛が浮かぶ。

 クレイも同じだ。あんなふうに魔法の知識をすらすらと言えるようになりたい。格好良い。

 「その通り。素晴らしい。アカーリアが言ってくれた一つ目の呪文の発展系はわかりやすいね。自分の魔力を使い、この場所を魔法の発現対象とする」

 ステアは自分の手元を示した。

 「そして、熱魔法と水魔法を合わせる」

 ステアの手の中で光が瞬いた。空気が揺らめき、ステアの手の中にアカーリアの顔が現れる。

 「水魔法と熱魔法の会わせ技。自然界では蜃気楼と呼ばれる現象だ」

 「すごい!」

 クレイは興奮して、ステアの手の手元を覗き込む。アカーリアの顔が揺らめき、ゆっくりと消えた。

 「まだまだ、こんなもんじゃねえぞ、魔法は」

 メーラが言った。

 「お前達には、まだ、基礎の基礎しか教えていない。マーリークサークルでもそうだ。一年生だからな。これからどんどん面白くなるぞ。おっと、なんの話だったか・・・そうだ、ケビンの魔法だな。さっきアカーリアが言ってくれた呪文の発展系の二番目がそうなのだ。魔力の出所を変える呪文というものがある。ケビンの魔法はおそらくこれに近い」

 「オレって自分の魔力を使ってないのか?」

 ケビンが驚いた口調で聞いてきた。

 茶太郎との駒の取り合いはさらにヒートアップし、ケビンは今、ジェンガの塔を暖炉の上で作り始めていた。そこなら茶太郎は届かない。しかし、それを狙っている者がいた。キキだ。

 「いや、そういう訳でもないはずだ。ここに来てお前が倒れたのは、おそらく魔力の使いすぎによる過労だろうからな」

 「?でも、タロルさんが・・・あ、こら!」

 キキが完成しつつあった塔に飛びかかる。

 ケビンは塔ごと魔法で移動させるが、さすがにバランスを保てず、駒がバラバラと崩れて床に落ちた。

 そこに茶太郎が嬉しそうに飛びかかり、またもや駒を腹の下に収める。

 「っこの、スパルタコーテャーども・・・お前はクレイを育てろよ。オレじゃなくて」

 ケビンがキキにそう言うが、キキは目を爛々と輝かせ、尻尾をブンブンふりながら塔を狙っている。

 こういう場合、犬より猫の方が厄介だ。

 「そう、お前の魔力は消して少なくはない。マーリークサークルからここまでの飛行で尽きるはずはないのだ。しかし、魔眼保持者の魔法の使い方はとても特殊だと言われている。そして、お前自身が魔法使いとしてはとても未熟だ」

 「・・・つまり、どういうことだよ?」

 「まだ何も言えん。結論はもう一人の魔眼保持者と会って話をしてからだ。それまでは保留だ。楽しみだな」

 ステアは心底楽しげにそう言った。

 結論が聞けなくて少々残念だ。

 クレイもメーラもアカーリアも、がっかりが顔に出ていた。ケビンは「まあ、中途半端な話を聞くよりはいいか・・・」と呟いていた。その隙にキキが積み上がったジェンガの塔に体当たりをくらわせた。

 「さて、アカーリア。君の方も、もう十分だ。君の実力はよくわかった」

 ステアがそう言って、手に持っていた杖を置いた。

 アカーリアも杖を置き、緊張した顔でステアを見上げた。

 「杖の振り方も、呪文の唱えかたも満点だ。魔法の知識深い。君の年にしては、だがな」

 「・・・・・・」

 「ただ一点、魔法の使用に難点がある。原因は魔力のこめ方だ。肩に力が入りすぎている。力を抜き、魔法の流れに身を任せるのだ。といっても、こんな言葉は何百回も聞いただろうな」

 「・・・はい」

 アカーリアはうなだれる。

 「スージー先生もイゴー先生も、ファヴァーヴァル先生もそう言っていました。でも・・・」

 「うむ。なので、君には全く違う練習方法を提案しようと思う」

 ステアの言葉に、アカーリアは驚いて顔を上げる。

 クレイとメーラも思わず身を乗り出す。

 ステアはこほんと咳払いして、話し始めた。

 「実は最近、本当に最近なのだ。この三ヶ月ほどで私が教えている三年生の数人を対象に、実験してみた練習方法があるのだ。とても新しく、試したことのある者は、魔界にはいないと思われる。成果もそれほど出てはいない。多少、良くなったかな?といった程度なのだ。君に効くとは断言できない」

 「・・・はい・・・」

 アカーリアは期待と不安の入り交じった声で、返事した。

 「しかし、魔法を新たな面から見つめ直し、これまでの魔法の使い方を考え直すには、とても良い方法だと私は思っている。アカーリア、君はきっとこれまでいろんな方法で魔法を勉強してきたと思う。君の呪文の唱え方は、まるでお手本のように美しい。スージー先生はとても教え上手なのだろう」

 アカーリアはうんうんと何度も頷いた。

 「ならば、これまでと同じ方法では駄目だ、と私は思う。どうだ?興味はあるか?」

 「あります。教えてください。その方法を」

 ステアは頷き、魔法で青い石が埋め込まれたリストバンドを出した。

 見覚えのあるアクセサリーだった。

 「ケビンの授業を受けた君なら知っているな。今日から実家に帰る日まで、これをつけて過ごすのだ。魔法は全面的に禁止だ」

 


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